【仁王雅治】幸せ (ページ4)

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しばらく歩いていくと、声の主が見えた。と同時に歌声が止まる

｢…っ｣

同い年位だろうか、堤防沿いに座っている女

そいつは泣きそうな顔をして俺をじっと見てきた

｢俺の顔になんか付いとる？｣

挑発するような口調で聞く俺に

｢目｣

即答でそう答えたそいつ。ほかにもあるじゃろ、と少し笑ってしまった

｢…お前さんよくここ来るんか｣

｢うん、仁王くんはいつも来てるの？｣

｢なんで俺の名前知っとるんじゃ｣

確かこいつとは初対面のはずだ

｢有名だよ仁王くん。今年から立海テニス部レギュラーでしょ？｣

｢まあそうやけど…お前さん立海の生徒か？｣

｢うん、同い年！｣

そうか、と軽く返事をしてそいつの隣に座る

｢なにか悩みでもあるの？｣

しばらく続いた沈黙を破ったのはあっちだった

｢仁王って悩みなさそうだよな｣｢たしかに上手く世界渡り歩いてそうっすもんね｣｢世間な｣

よくそう言われるからか、そんなこと聞かれたのが初めてだったからか

｢……お前さんに言うてもって話なんじゃがな、聞いてくれるか｣

不思議と話したくなった

｢うん｣

小さく返事をしたそいつを横目で見た後、空を見上げる

｢…立海大附属は全国二連覇しとる強豪じゃ。勝つこと、それが掟｣

｢俺は今年からそこのレギュラー｣

空から、ずっとずっと遠くまで続く海に視線を移す

｢果たしてその役目が努まるんかと思っての～｣

俺はコート上の詐欺師、相手を騙して勝利を掴む

しかしそれがどこまで通用するのか、

そんな得体の知れない不安があった

｢…私はテニスの知識はさっぱりだし、素人だけど｣

しばらく経った後、そいつが口を開く

｢いつも自分を信じられる仁王くんの、ありのままの変幻自在って素敵だと思う｣

こいつは俺をどこまで知っているのか、

｢なんか上からだね、ごめん｣

｢…いや全然、むしろスッキリした｣

｢なら良かった…あ、私そろそろ帰らなきゃ｣

｢ちょっと待て、名前｣

｢…A、またね仁王くん｣

一瞬名残惜しそうな顔をして帰っていったそいつの、Aの背中を、座ったまま見続ける

｢ありのままの変幻自在…面白いこと言うのう｣

心が軽くなった気がした