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あれから試合は進み、残りは野球部の攻撃を残すのみ。
『がんばれ…』
バントでノーアウト満塁になってしまったこのピンチの中、迎えるバッターはピッチャーの子。
…野球部のエースくんだ。
「負けちゃうのかなぁ……」
陽菜乃ちゃんが眉を下げながら呟いた。
うーん…と私はどう答えていいか分からず、心の中で応援することしかできなかった。
しかし、思っている展開とは違う。
試合に目をやるとカルマと磯貝くんはバッターの目の前にいる。
私は状況を理解出来ずにじっと見つめた。
「な、何あれ…」
「あれ、バット振ったらぶつかるんじゃ…」
一般生徒の呟きが耳に入ってくる。
…バットくらいなら避けることなんて簡単なんですねこれが。
杉野が一球目を投げた。
バッターの子は大きくバットを振るけど、もちろん余裕でカルマと磯貝くんはそのバットを上手くかわす。
そして二球目。
「う、うわあぁっ…」
バッターは腰の引けたスイングで球を打った。
そんな弱々しい球を、カルマはジャンプしてグローブを使わずにキャッチする。
…いや、グローブ使えよ。
·
トリプルプレーでゲームセット。
まさかの展開に本校舎の生徒達は文句しか言えない様子。
「ゲ、ゲームセット……!なんと…、なんとE組が野球部に勝ってしまった!」
流れた放送に女子みんなは嬉しそうに飛び上がる。
…あっは、天使の戯れ。
「キャー!やった!」
「男子すげぇ!」
私はみんなと軽くハイタッチをしてからカルマの元へと歩き出す。
そんな私に気がついたカルマが顔を上げた時、ガッ…と地面につまづいた。
綺麗に地面にダイブした私に、男子達が一斉にこっちを向く。
「ちょ、おま、何やってんの」
「大丈夫か!?」
腹を抱えて笑ってるカルマとは対照的に、心配してくれるのは優しい磯貝くん。
ああもう、磯貝くんと付き合いたい。
「ばっかだね」
『うっさいなぁ』
カルマは無言で私をじっと見つめる。
そんな彼に「…え、なに」と尋ねれば「風邪ひいてんの?」と顔を覗き込まれた。
『まぁね』
「バカは風邪ひかないんじゃなかったっけ」
『それ風邪ひいてる人に言うなよ』
「あ、バカは風邪ひかないんじゃなくて気づかないだけか」
『私の方が成績上ですぅ!』
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