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「久しぶりだね栗原Aさん?」
『そうですね、“理事長先生”。…何かご用でも?』
私たちのやり取りに、E組のみんなが“なんか怖い”と顔を合わせたのは知る由もない。
私の言葉に「経営者として様子を見に来てみました、新任の先生の手腕に興味があったのでね」と答えると、彼は私よりも奥にいた鷹岡の方へと視線を移した。
「でもね鷹岡先生、あなたの授業はつまらなかった」
つまらないとかいう以上に、あんな体罰許されるわけがない。
ただ口を出すのは面倒くさかったので何も言わなかった。
すたすたと無駄に長い足で鷹岡に歩み寄った理事長は、いつもの相手を洗脳させるような口ぶりで告げる。
「教育に恐怖は必要です。一流の教育者は恐怖を巧みに使いこなす。…が、暴力でしか恐怖を与える事ができないなら…その教師は三流以下だ」
…かと思えば、紙とペンを取り出してさらさらと何かを書き出す。
「自分より強い暴力に負けた時点で、それの授業は説得力を完全に失う」なんて妙なくらいに“説得力”のあることを言いながら。
そして理事長は、くしゃりと丸めた紙を鷹岡の口の中に突っ込んだ。
…うわ。
「解雇通知です。以後あなたはここで教えることはできない。
『…っは、怖ァ』
「“全て私の支配下だということをお忘れなく”」
それだけを残して去っていく理事長に、鷹岡は悔しそうに口の中に入った紙を噛み締めた。
…紙だけに。なんつって。
逃げるように行ってしまった鷹岡に私が「やるぅ、理事長」と呟いたのに続いてみんなもぽつりぽつりと言葉を零す。
「鷹岡クビ…」
「ってことは今まで通り烏間先生が…」
みんなして「よっしゃあ!!」と喜んだところで、杉野が「理事長もたまには良いことするじゃんよ」なんて言ってるのが聞こえて思わず耳を疑う。
『…え、あれが?』
「う、うん。あっちの方がよっぽど恐いけどね」
『んん、…まぁ、鷹岡よりは』
暴力でしか私たちに教えることが出来ない教師なんてゴミクズでしかない。
うんうん、と自分の中で納得していると、この流れに便乗して莉桜が楽しそうに声を発した。
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