６８． ページ19
「お前らもまだ俺を認めてないだろう。父ちゃんもこのままじゃ不本意だ」
…父ちゃんって言うことすらも不快なんだけど、黙っておこう。鷹岡は愚か、烏間先生や前原にも怒られそうだから。
「そこでこうしよう！こいつで決めるんだ！」
「…ナイフ？」
鷹岡が取り出したのは対先生ナイフ。
不思議そうに奥田さんが首を傾げたのが私の位置からでも分かった。
「烏間、お前が育てた生徒の中でイチオシの生徒を一人選べ」
急にそんなことを言い出す鷹岡に、みんなは何かを察したように息を呑んだ。
「そいつが俺と戦い、一度でもナイフを当てられたらお前の教育は俺より優れていたのだと認めよう」
…私たちに拒否権は無いのね。
結果で示せってことか。…まぁ、そこは納得。
体格も年齢も経験も違う中学生にやらせることではないけど。ツッコミ入れるのすらも面倒くさい。
「その時はお前に訓練を任せて出てってやる！男に二言はない！」
『よし、男に二言はないんだな』
「ただしもちろん、俺が勝てばその後一切口出しはさせないし…、使うナイフはこれじゃない」
地面に落ちた対先生ナイフ。
その代わりに鷹岡の手に握られているのは…本物の鋭いナイフ。
…いやいやいや、真面目に死にますって。
「殺す相手が俺なんだ、使う刃物も本物じゃなくっちゃなァ」
「よせ！彼らは人を殺す訓練も用意もしていない！本物を持っても体がすくんで刺せやしないぞ！」
「安心しな、寸前でも当たったことにしてやるよ」
俺は素手だしこれ以上無いハンデだろ、と告げる鷹岡は自信満々だ。
…あいつ負ける気ないな。
「さぁ烏間、一人選べよ！嫌なら無条件で俺に服従だ！」
そう言って急かされる。
…なんつー、最悪な選択だよ。
「生徒を見捨てるか生け贄として差し出すか！どっちみちひどい教師だなお前は！はっははー！！」
『それはてめぇだろうが』
気分の悪くなるような笑みを浮かべる鷹岡に、ぞくりと背筋が凍った。
烏間先生は迷った様子で私たちのことを見つめ、しばらくして地面に刺さったナイフを抜くとゆっくりと歩き出す。
「……渚くん、やる気はあるか？」
そして、先生が選んだのは───渚だった。
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