爽やかで甘い、：01 ページ1
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悪くはないな、と思った。
何様だって感じだけれど。
からんころんと鳴るベルは暖かそうで、店内の雰囲気もやわらかい。
時折香る、微かな食べ物のにおいと、お酒のにおいと、笑い声。あまり酒屋に来ない俺だって、カフェのようなここは、いいお店なのだろうと知った。
｢お客さんいらっしゃい！ 何名様ですか？｣
｢先に連れがいるはずなんですけど……｣
｢あっ、あのラッキョウさんの連れですか！ こちらになります！｣
ラッキョウて。思わず笑いだしそうになるが、断じて間違ってはいないので、素直についていく。
個室という個室はないけれど、席と席の間はそれなりの距離感があって、あまり騒がしくもない。
ラッキョウ── もとい、金田一。よくこんな店を見つけたな。あまり酒が得意ではないのに。
｢悪い、待たせた｣
｢いや、全然待ってねぇよ！ 俺が早く着きすぎたんだって！｣
｢やっぱり｣
｢あれっ｣
会って早々、そんなテンポのいい会話を繰り広げる。
こいつとは、中学校……下手したら小学校高学年の頃からの付き合いだ。ここまで腐れ縁だとは思っていなかったけれど、こいつの隣は、結局心地がいい。
秋物の安いコートをカーテンにかけると、待ってましたと言わんばかりに、笑顔の店員さんが俺に話しかける。
｢お客さん、飲み物は何にしますかい？｣
｢あー……っと、とりあえず生で｣
｢あいよ！｣
まだメニューも見ていないし、特別ビールが好きというわけでもないが、まあ所詮は1発目だ。
2発目でもなんでも融通はきく。
｢あれ？ お前ビール好きだっけ｣
｢いや？ とりあえず｣
｢へえ｣
すとんと木の椅子に座る俺を、いつも通りの反応で見送る金田一。
あ、これメニューな、なんて渡してきたのは、これまたもみじ色の、鮮やかなものだった。
よく見れば、他の席席で色が違う。
あそこは山吹色、あっちは浅葱色。…… なんだ、随分と手の込んだお店じゃないか。
｢ここな、サークルの先輩の先輩が教えてくれた店なんだよ｣
｢もう他人じゃん｣
｢んー、まあそうなんだけどな。あっ、あとここ、ヨネシマさんのお任せサラダがうまくて、あとだし巻き玉子も癖になるかなあ｣
｢……ふ、お前常連なの？｣
笑って聞くと、金田一も笑って、｢まだ4回目だし｣と言った。
あまりお酒に興味が無い俺でも、流石にこういう場では飲む。好きな酒もなければ、拒否反応を起こすような酒もない。
家で買いやしないが、奢られたり、飲み会に誘われた時にたしなむ程度だ。
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作者名：ふいぁさ | 作成日時：2018年10月27日 7時
