彼なりの愛情表現:青 ページ2
兄者さんは言葉で伝えるのが苦手だ。
好き、大好き、愛してる。
弟者くんやおついちさんから見れば、その態度はすごく表れているらしいけど、当の本人からその言葉が出ることはない。
要するに、兄者さんは不器用なのだ。
「A」
「はい?」
「ん」
ただ、彼には可愛らしいところがある。
言葉にするのは苦手なのに、私に触れる手と行動はとても優しい。
今だってほら、誰もいない兄弟宅で両手を広げてこちらを見ている。
私しか見られない、唯一の特権。
愛しさが込み上げてきて、微笑みながら強く彼に抱きついた。
「兄者さん、好き、好きです、だーいすきです」
そして、こっちから素直に言葉を口にすると。
照れ臭そうにしながらも、口角をあげて俺もだと言ってくれる。
好きだとか、愛してるとか、そんなんじゃなくて。
いつだったか、おついちさんに聞かれたことがある。
「自分自身の口から"俺も"だけって、普通のコは不安がるものじゃないの?」って。
不安に思う人がいるであろう"俺も"というだけの言葉に、不満なんてひとつも感じない。
だって、彼自身の行動で伝わってくるから。
言葉を紡ぐのが苦手なら、行動で示す。
そこも兄者さんの愛しいところ。
「言葉よりも行動の方がよっぽど恥ずかしいものなはずなんだけどね」
いつの間に帰ってきたであろうジト目でこちらを見る二人に、私は苦笑した。
確かに、それは言えてるかもしれないと思ったから。
ブツブツと言う彼らを気にせず、兄者さんは頬擦りをする。
「行動の方が、自然とAに甘えることができんだよ…」
拗ねたように言う彼に、私は驚きながらも嬉しくなった。
そう、私達はこれでいいのだ。
言葉がなくても、これがお互いの愛情表現なのだから。
「あー、まだ夏前なんだけどなー!?」
「部屋が暑いよ弟者くん、君の家どーなってんのー!?」
「うっせーよ、とっとと実況してきやがれ!!」
棒読みながらも叫び気味に声を荒らげる二人と睨みながらも抱き締める手を緩めない兄者さんを見て、私はまた苦笑した。
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作者名:sky | 作成日時:2018年5月17日 23時