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弟者の言葉を聞き、おついちは顔が少し歪んだ。

「…兄者が大切なのはすごくわかるよ、家族だもん…でも、君がこれ以上傷つくの、僕見ていられない」

おついちがそう言うと、弟者は困り笑顔を見せた。

「ほんと、おついちさんも優しいんだから…」

彼の笑顔を見ると、おついちの心は苦しくなる。
あの日までは…あの日までは、彼の悲しそうな顔なんて見ることはなかったはずなのに。

「でもね、今日も会えなかった…やっぱり、強かったよ」

「弟者くん…」

「辛いよ、あの団体の中に被害者がいると思うと、どうも倒せなくてさ」


弟者の実の兄は、自分たちのいる街より少し北にある国に幽閉されている。
…何十年も前から。
その北の国は大きいわけではないが、とある裏社会では有名である。
その国は、有力な二十歳前後の魔法使いを拐い、全世界を支配しようと企む輩たちだった。
その国の者は、自らを"アザゼル"と呼ぶ。

「ごめんね…あの時、僕に力があれば…」

「気にしないでよ、誰も悪くない…悪いのは彼奴等だから、ね?」

そう、兄者、弟者、おついちの三人は被害者だ。
15年前、アザゼルはひとつの魔法学校を襲った。
当時の彼らは、魔法学校の生徒たちの中でとても優秀だった。
アザゼルはその三人を狙っていた。
怪我人も、死人も出た…被害は大きかった。
兄者は、二人を守る為犠牲になった。
弟者は自分を憎み、恨んだ…何故己はこんなにも無力なのだろうと、彼は自分自身を呪った。
彼は決心をした、自分がどうなろうと必ず、兄を救い出すと。
例え、悪魔に見を差し出すことになろうとも。
そして彼は、今の姿になった…たとえ愚かな行為だとしても、弟者に後悔の二文字はなかった。
しかし、弟者はいざ国の城を攻めるとき、彼の優しさが凶と出るのかそのまま反撃されてしまい、中々先に進むことができなかった。

おついちは、あの日の悔しさを忘れたことなどなかった。
その後は血の滲む努力をし、今や数人しかいない天才の魔法使いの一人になった。
そして今は、アザゼルの情報を集めるため、魔法学校の教師をしていた。

「弟者くん、お願いだからもう一人で無茶をしないで…僕だって力になれるからさ、もう少しだけ…もう少しだけ待ってよ」

そう言うおついちの顔は、いつの間にか今にも泣きそうなほどに歪んでいた。
その顔を見た弟者も、顔を歪ませた。

「…おついちさん、ありがとう」

言葉を発したあと、彼の頬にひとつの雫が通った。

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作者名:Sky | 作成日時:2017年9月9日 19時

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