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「弟者さん、こんにちは」

次の日、私はまた森の中に行くと、弟者さんはすでにいて、木陰にある岩に腰掛けていた。

「こんにちは、今日は俺に何か用事があるのかな?」

「用事というか…おついち先生から弟者さんも魔道士だったって聞いて、貴方の魔道士時代の話が聞いてみたいと思って…迷惑、ですかね?」

「そんなことないよ、こっちに座ってゆっくり話そうか」

そう言って弟者さんは自分の隣をトントンと叩いた。
私は遠慮がちに弟者さんの隣に座った。

「じゃあまずは…」

弟者さんが魔道士だったときは、私の今の魔法授業にはないことや、授業以外でやったこと、おついち先生や兄者さんと過ごした思い出など、沢山のことを話してくれた。
彼がお兄さんの話をするとき、時折見せる弟者さんの悲しい表情が気になったけど、私は何も言わなかった。


しかし、急に弟者さんが発した言葉に、私は目を見開くのと同時に心臓が脈打った。

「Aは…北の国のこと、聞いたことある?」

"北の国"、その単語に私は冷汗が背中から流れるのを感じた。
私は、その国を誰よりも知っているから。

「兄者は今、北の国に幽閉されてる」

「幽、閉…?」

そう言うと、弟者はゆっくりと頷き、話し出した。

「15年も前…襲撃された時、兄者は俺とおついちさんを庇って北の国の奴等に連れて行かれたんだ」

その日ことを思い出したのか、眉を寄せ、両手を組みながら悔しそうに顔を(しか)めた。

「俺は何もできなかった、ただ兄者が連れて行かれていく姿を見て、泣きながら手を伸ばしただけ…あの時の兄者の顔が、ずっと頭を離れないんだ」

そう言いながら、弟者さんは組んでいる手に力を込めた。

「自分がとても恨めしかった…何でこんなに無力なんだろうって、後悔ばかり」

「…」

「優等生なんて上っ面だけだ、魔法が人より使えるだけで、実際何も出来やしない腰抜けだった」

顔を下に向けながら話していた弟者さんはその顔を上にあげた。
その表情は、怒りと決意に満ちていた。

「でももう、何もできないだけの腰抜けになんてなりたくない、今は使える魔法も強さと引き換えにほぼなくなったけど、俺は絶対に兄者を助ける、そう決めたんだ」

何の迷いもない瞳で、彼は私にそう言った。

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作者名:Sky | 作成日時:2017年9月9日 19時

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