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「ストップ!いつまでも喧嘩してんなよ!あと沖田総司さんと一緒にしないで。あの人は剣の天才だったんでしょ。剣道はやってるけど、そんな天才と一緒にされちゃ困る!」
「は〜、沖田くんと手合わせできる日が来るなんて、幸せっ…!」
「ちょっと待って、可愛くするから時間頂戴!」
「人の話聞けな君たち」
安定は心ここに在らずでニヤニヤしてるし、清光はガバッと立ち上がり鏡と櫛を持ってきてまた腕を絡めながら身支度を整い始めた。器用かよ。
「あのさ、私が勝ったら明日出陣してきてよ」
「え、出陣…」
「それって僕達二人で…?」
「そーよ、君たち二人で出陣するの」
「俺達が勝ったらどうするの?」
「私が勝つから、それは愚問だね」
あえて挑発をしてみる。
それに、私にだってプライドがある。これで勝たないと二人を動かすことはもう無理かもしれない。だから絶対に負ける訳にはいかない。
破顔していた安定も、髪の毛を整えている清光も、ぱっとお互いに顔を合わせて頷きあった。
よし、少しはやる気が出たみたいだ。
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「っ…はぁ、はぁ…相変わらず強すぎ、るっ…!」
「…っ、強すぎ…もっと好きになっちゃったよ!」
「はぁっ…約束通り、明日は出陣ねっ…」
大の字になり寝転がる二人を上から見下ろす。
手合わせは私の勝ちだった。
竹刀を交えて分かったがニ人は私の剣筋に似ていてとても戦いやすかった。つまり沖田総司の剣筋にも似ているのだろう。
竹刀を持った安定はそれはそれは人が変わったみたいで、普段は大好きと可愛い顔で言ってくるのに、打ち合いが始まった瞬間「おお、殺してやるよ!子猫ちゃん!」なんて急に物騒なことを言われて焦ったが、私も剣道部の部員たちに試合になると豹変すると聞かされていたことを思い出した。
もしやこの豹変も沖田総司の影響を受けているのかという考えが頭をよぎり、少しだけ苦笑いが溢れた。
「手合わせできたのは凄く嬉しいけど、負けたのは流石に悔しいな…」
「そーね、こんなんじゃ俺達主のこと守れない」
「もっと、強くならなきゃ」
「うん…それに、二度と離れたくないからね」
汗をかいたままの二人に私は水とタオルを持ってこようと稽古場を出る直前に聞こえた会話。
その会話を聞いて私の頬は今だらしなくさぞ緩んでいるだろう。
強くなりたい、その言葉を聞きたかった。
嬉しさを胸にそっとその場をあとにした。
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作者名:べべ | 作成日時:2020年11月18日 14時