サヨナラは美しい ページ13
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気づけば、気配を殺したような静けさと暗闇が辺りを支配している場所にいた。
"御用改である！"
静寂を破ったのは、新選組が池田屋へ乗り込む際に放ったと歴史で習った有名なセリフ。
誰かのその声を合図に、扉から一斉に建物へと踏み込んだ。
私の意志とは無関係に動く身体でひたすらに人を斬り込む。
瞳から映し出される惨劇が頭の中へ繰り返し入り込んできて、まるで映画のワンシーンを眺めているような感覚だ。
この身体の持ち主と五感などもすべて共有されているようで、竹刀とは全く違う皮膚を貫き肉に食い込み骨を断つ感覚、むせ返るような鉄の匂い、目を背けたくても強制的に脳内へ飛び込む非日常に気が狂いそうになる。
敵の人数に対してこちらは四人と分が悪い。
斬っても斬っても減らない敵にだんだんと苛立ちが募る。
どれ程の時間身体を動かし続けているのだろうか。
不意に胸から喉にかけて不快なものが突き上げてくるような、何かを吐き出す前触れの感覚がこの身体の持ち主を襲う。
それを無視して刀をふるい続けていれば、猛烈な咳を抑えきれず体は動きを止めた。
"総司！"
心配しているような声色で何度もその名が呼ばれる。
大丈夫です近藤さん、心配しないでください。と口が勝手に動いた。
こちらを心配する近藤さんを一瞥して、また敵に斬りかかる。
新選組、池田屋と予想される場所、手に持つ紅色の刀。何となく予想はしていた。咳を吐き出す身体に、総司と呼ばれて確信を得た。
身体の持ち主は沖田総司に間違いない。
敵の人数も半分程に減っていき多少は楽になってきたな、と敵を前に刀を交えながら思っていた時に嫌な音が耳に届く。
刀の切っ先が、先程まで人を断っていたそれがカラン、と地面に転がり落ちるのを捉えた。
その出来事に目を奪われスキを突かれそうになったが刀を受け流し、相手の刀を奪い切り返す。
あっけないほどにあっという間の出来事。
彼の愛刀である加州清光が折れた。
その事実を認識したと同時に煮えたぎるような、喉の奥が焼けるような痛みが突如襲う。
肺がキシキシと痛み、それを意識してから再び咳が止まらない。
喉が熱い、呼吸が苦しい
畳み掛けるような咳から逃げ出すように身体が二つ折りになる。
ゴホゴホと出てくる咳を抑えるため口元に当てていた手に違和感を感じた。
沖田総司もそれを感じたのか視線を向けると、刀に付着するそれと同じ赤色が手の平に広がっていた。
そして、世界が暗転した
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作者名：べべ | 作成日時：2020年11月18日 14時
