【d!】拝啓、親愛なる貴女へ【rbr】 (ページ5)

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独特の匂いが鼻につく。
目を開けると、全く知らない天井の下にいた。
視界の端には点滴が映る。病院だ。
鈴の音が耳元で鳴って、それから…嗚呼、どうなったんだっけ。ここに来るまでの記憶が無い。
まぁ、いいか。何があったのかはお母さんにでも聞こう。
「Aちゃん！起きたのね、良かったわ。」
たまたま点滴を変えに来たであろう看護師さんがベッドのすぐ側に来た。
「ちょっと先生呼んでくるわね」
引き戸を開けて出ていってしまった。
看護師さんが来るまでの間、もう一眠りしようと目を閉じた。

次に目を開けると、ガラガラという音と共に誰かが入ってくるのを感じた。
看護師さんが帰ってきたのか、と戸に目線を送ると男の人が立っていた。
「嗚呼、やっと起きたんやね。よかったわぁ、このまま一生起きやんだらどないしようかと思った。」
そう言って、背がそこまで私と変わらない男の人が微笑みながら近づいてきた。
口振りからして私の知り合いだと思う。
だが、誰なのかが全く分からない。あわあわしていると、不思議そうだけどどこか悲しさを感じる表情を浮かべていた。
「俺の事、覚えてないん？」
その問いに、私は答えられなかった。
答えない私を見て、俯いてしまった。
「俺、Aの恋人の、天乃呂戊太言います。思い出してもらえるよう、頑張るわ」
頬を染め、彼はそう言った。

恋人。

そうか、彼── 天乃くんは私の恋人なんだ。