【d!】拝啓、親愛なる貴女へ【rbr】 (ページ1)

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記憶の片隅、鈴蘭有り。ページ1

暑い夏が本格的に始まる少し前、初夏のある日。傾ききった太陽に照らされながら長い一本道を歩いていた。
今日は実に憂鬱だった。放課後、男子に呼び出されたと思ったら付き合ってくれとしつこく迫られた。
部活に遅れたため顧問に指さされ、しゃんとしろとお説教を食らったのだ。本当、今日はついてない。
告白してくれた子、顔は良かったな。誰かわからなかったから振ったけど。
そういえば昼休みに友達がこんなことを言っていた。
最近多発している不思議な事故は、この世のものでは無い者の仕業だという噂が飛び交っていると言う。
ニヤニヤしながら言いやがったけど、私はそういう心霊系はからっきしダメである。
嗚呼、怖いことを思い出してしまった。早く帰りたい。
怖い思いを紛らわせるために携帯をいじりながら信号が変わるのを待っていた。

シャラシャララ

道路の方から鈴の音が聞こえたような気がした。
だが、そこには何もいない。虚無だけが続いていた。
気のせいかと画面に目線を戻すと

シャラシャラシャララ

また鈴の音が聞こえた。心做しか鈴の音が近くなっている気がする。怖くなった私は携帯の画面を見た。真っ暗になったスマホの画面を眺め続けた。
そのまま前を向いていちゃいけない。何かいる。そう感じた。

｢そないなところで俯いて、どないしたん？｣

頭上から降ってくる声に驚いて顔を上げた。
｢天｣の雑面をつけた、少年のような、だけれど雰囲気は青年のような不思議な人が立っていた。
この人、どこかで会ったことある気がする。
そんなことを思った瞬間、頭がガンガンと痛くなり目の前がぐるりと回った。
次にくる痛みに脅えを感じたが、痛みなどいくつ待っても来なかった。代わりに来たのは妙に冷たい何かが私を包み込んでくれるような感覚だった。
｢あんさん、大丈夫か？｣
驚いて目を開けると目の前に彼の顔があった。
どうやら受け止めてくれたらしい。
雑面の下には幼い印象の綺麗な顔。
やっぱりこの顔どこかで…あぁ、やめよう。頭がまた痛くなる前に、私は考えることを放棄した。
｢俺の顔に、なんかついてる？｣
じーっと顔を見つめる私を見て疑問に思った彼が、不思議そうな顔をして質問してきた。ふるふると首を横に降るとより一層不思議そうな顔をしていた。
本当、見れば見るほど美形だ。
｢んふふ。あんさん、顔真っ赤やで｣
口元に手を置き上品に笑う彼。雪のように白い肌がうっすらと桃色に染っていた。
その姿はどんな妖よりも美しかった。