好きな人なんていなくても (ページ3)

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２. 出会いページ3

私が彼と出会ったのは5年前、高校1年生の入学式のとき。
春なのに初夏並の暑さだったのを覚えている。

うちの高校は一応県内1の進学校で、歴史を重んじちゃってるもんだから制服なんてダサいダサい。(喪服って言われてた)

周りには休み時間中ずっと勉強してそうな人と、顔スタイル頭全てがカンペキのチート人間、あとは私みたいなモブ1、モブ２…。

規律を守った重苦しい入学式で彼は新入生代表だった。

それに比べて私はただの一生徒。

けど真面目ではなかったから、入学式の新入生代表のことなんて覚えてなかった。だから彼のことを知ったのはクラスに入ってからだった。

私と彼は同じクラスで、彼は窓際、私は廊下側で、決して近くなかった。

同じ中学の人同士で話したり、コミュ力高い女子が初対面の陰キャに話しかけたり。

担任の先生が入ってきて、お決まりの自己紹介が始まった。
どうしてそんなに自分を紹介させたがるんだろう
まあいいけど。

私はいつもの定型文で乗り切った。
まるで関心のない、乾いた拍手。
それにしても、暑い。エアコン効いてんのこれ

彼の番が回ってきた。
周りが「あれ新入生代表の人だよね」「うちのクラスなんだ」と言っていたが、そんなこと考える余裕なんてない。
汗がジメジメと私の首を滴り、私を余計不快にさせる。

他人の自己紹介なんて覚えてない。
けど何故かその時の彼の自己紹介は今でも一言一句覚えている。

立ち上がった彼は、真っ直ぐな目で前を見ていた。
「〇〇中学から来ました、一条磬(けい)です。趣味は特にありません。中学のときに吹奏楽部だったので、高校でも続けようと思ってます」

ごく普通の自己紹介。ありふれた、だけど何故か記憶に残っている。

一通り自己紹介が終わり、その日はそれだけだった。