手当 ページ6
膝を抱えて、布団の中で外で人たちが忙しなく動く音を黙って聞いている。今までと同じ生活なのに、きっとそれが僕を歓迎するためだと理解してしまったからかはやく脱したい気持ちとこの場から少し動いただけで食堂に連れて行かれるのではないかという不安に挟まれてぴくりとも、瞬きをすることすら憚られる。
「テディさん、まだ寝てるなの？」
はくり、と薄い呼吸をした。たのむ、たのむから僕のことは放っておいてくれとぎゅうと目を瞑るとノックが響く。
「おい陰キャ」
遠慮もなく入ってきたのは、う、誰だろうか。僕がこの部屋から出るのは試合がある時と、夜の深い頃にたまにご飯をとりに行く時くらいだ。人と関わることがないからか役職名と顔でしかこの荘園にいる人を認識できていない。
「おい！」
「わ、ぅ、うわっ」
「起きてんのか」
綺麗にアイロンのかかったワイシャツに、赤いネクタイ。僕はあの孤児院に僕を引き取りにやってきたおじさんを思い出して呼吸がままならなくなる。
「人の顔見てそれって。失礼にも程があんだろ」
「フレディさんの言い方がきついからなの。テディさん、フレディさんに悪気があったわけじゃないなの。」
「う、う、うん、わ、かってる…」
ハタチも超えたのに、こんな喋り方？と馬鹿にされているような気がして僕はまた布団の中に戻りたくなった。それが叶わないのは医者、の人に羽毛布団をすでに畳まれてしまったからだ。
「ご飯が用意してあるわよ。あなたが何を食べたいのかはわからなかったから、みんなが好きなものを寄せ集めた形ではあるけれど。」
久しぶりに立った、ような足は地面を蹴ることを忘れてしまったようにもつれて、手を引かれたと言うのに床にひれ伏せてしまった。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい…」
びたーんって、ひどい音が響いて僕は耳まで真っ赤になってしまう。こんなの、本当はなかったのに。その音を聞いて横から男の人がもう1人出てくる。
「…男かよ」
オッドアイの髭の男だ。僕は肩がぴくりと跳ねて、そんな様子を見て庭師の人と、医師の人は眉を顰めた。彼に耳打ちで何かを伝えている様子にざわめいて、頼むから頼むから頼むから余計なことは言わないでくれと名前も顔も言葉も知らない神様に祈った。
「はあ？俺に運べっての？！」
余計なことを言ったようで、男のちょっと怒ったような声が聞こえた。……それ、ちょっとお父さんの声みたいだ。
「他に…いるだろ。もっと力あるやつとか」
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作者名：ちーうし | 作成日時：2024年1月22日 0時
