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下手なんじゃなくて下振れ日 ページ12

夢にまで見た、偉大な建築家さま。別荘を建てたのも彼だった。彼だったらしい。
凛とした姿は見る影もなくて、庇うように抱えた建築図の束と芯の長い鉛筆だけが彼のかわいそうな体にひっついている。
「ホワイトさん」
「…あ、…ワルデンちの、息子くん…」
彼の口調は丁寧なのか丁寧ではないのかわからない。人のことはほとんど呼び捨てなくせに、敬語だし、かといって職業で呼ぶとなった途端に敬称をつけはじめる。
大袈裟に息をした。彼は食堂に入るか入らないか迷っているみたいだ。僕はただ、水を汲もうと思ってやってきただけで夕食を食べるつもりはなかったから、彼が1人が心細いと僕のサスペンダーを引っ張ったとしても首を縦に振りはしない。
「な、んだっけ…」
「は?」
「なんとか、ワルデン…マドリア?タイガー、あっ、ちょっと、惜しいような…」
「……エドガー。マドリアって、誰のこと呼んでんの」
「ああ。エドガー、エドガーだったね。久しぶり、だね」
僕が扉を開けると彼は雛鳥みたいに僕の後ろをついて、冷蔵庫を開けた。フルーツがないと小さく呟き、コップを手に取って、水を汲んで、口に含む。たったそれだけの動きなのに僕が神聖化しているからか、はたまた彼が美しいからかあまりにも様になっている。
彼が作る建物がいいなんて右足を出したときに左手が前に出るみたいな、そんな、当然のことだ。僕は僕の家よりも別荘の方が好きだった。山の奥にひっそりと建てられた秘密基地のようなワクワク感のある別荘。
まるで何かから隠れるように木で建てられたそれは広いバルコニーでBBQをすることもできたし、2階、と呼ぶには半分がないからほとんどロフトと呼んだほうがいい場所で大きなベッドで寝ることもできたし、屋根の上に登って星を見ることもできた。

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作者名:ちーうし | 作成日時:2024年1月22日 0時

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