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八話 ページ9

音楽室で一人歌っていた一年生の夏。

この日も今日と同じように暑さに負けて大学に残ってたんだっけ。誰もこない一人の空間と冷房の涼しさに心地よさを感じて、長い間離れられなかったのを覚えている。

夏だけど冬に聴きたくなるようなバラードの曲調が好きで、外から聞こえる蝉に対抗するように声を出す。


調子がいい、歌っていてそれが分かる。

夢中になって自分の世界に入り込んで。

人が見ていたなんて、そんなことにも気づかなかった。




『…ふぅー。今日はいい感じに歌e...「すご」





……………え?』




「すご!!」


『(…っ、見られてた!?いつから!!?)』




ハッとして振り返れば男子生徒が二人こちらを見ていて。
一人はすごいと近づいてきて、もう一人は大人しめに拍手をしてくれている。

あまりの恥ずかしさに目を合わせることができないままでいれば、



「あ、勝手に入ってごめんなさい。でもほんと綺麗な歌声でどうしても見たくなったんです」


『あ、ありがとう…ございます』


「…また聴きにきてもいいですか?」


『…それは恥ずかしいのでイヤです』




と言ったものの、この人は毎日のように訪れて。

気付けばタメ口で話して、よく会うようになって、付き合うことになって。少し…いや大分慣れてそうな印象だったし、初めは遊びなのだろうと思っていたのに。


彼はいつだって真剣で、私を大切にしてくれていた。

だから、もう聞かなくなった歌への感想も興味も、恋人というものを彼が崩してしまったのも、全て破片が突き刺さるように痛くて。うまく、呼吸ができなくなった。

好きなことをするたびに彼を思い出して苦しくなるのなら、もういっそのこと歌を辞めてしまいたい…そう思うことが多くなって。何もかもが絡みついて分からなくなって、解けなくなる前に離れたくなったのだ。


 
…こんなことをピリちゃんに伝えたら、きっと悲しませてしまうから言いたくはない。
その優しい笑顔を曇らせてしまうことは出来ないから。
 
 
 
 
 
 
 
『…ヒョンジンとピリちゃんとおかげで歌をお仕事に…って思えるようになったんだよ』


「僕たちは何もしてないよ。そんなに素敵なものを持ってるんだから隠しちゃ勿体ないでしょ?」



『…ピリちゃんは太陽みたいだね』



「ははっ、どういうこと??」





ふわり笑うその表情に、まるでココアを飲んだような安堵感を感じられて。と同時に涙腺が緩んで懸命にこらえた。

終わり ログインすれば
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みんも(プロフ) - まるさんかくしかくさん» コメントありがとうございます! まだオチは決めてないので、想像しながら読んでいただけると嬉しいです…!これからもどうぞよろしくお願いいたします。 (6月1日 21時) (レス) id: 9f345021ae (このIDを非表示/違反報告)
まるさんかくしかく(プロフ) - ハッピーエンドだと…嬉しいです! (6月1日 16時) (レス) id: 6691782cad (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:みんも | 作成日時:2023年5月31日 23時

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