4話 ページ4
「…お風呂、ありがとう」
背後からした聞きなれない少女の声に俺はびくりと肩をふるわせた。振り向いた途端すらっと伸びた足が目に入る。
彼女はズボンは履いておらずワンピースのように上だけ着用していた。男物のスウェットといえどさすがにワンピースにするには丈が短く、さっき着ていた制服よりも遥かに露出面積が大きい。
目のやり場に困っている俺に見かねたようで彼女は近付いてくる。
「あ、そういえばこれ着てもよかっ…」
彼女がそう言った刹那の事だった。フローリングの些細な段差に足を引っ掛けた彼女が、タオルを放り出して前のめりにバランスを崩していくのが目に入った。
俺はとっさに彼女の手を引いていた。
しかし支えるつもりが長らく運動不足である自分の体幹を過信しすぎてしまったせいで、彼女もろとも俺は仰向けに倒れることとなった。
気が付けば俺が仰向けに倒れ、その上に彼女が乗る形に落ち着いていた。
背中には冷たいフローリングの感触。後頭部の痛みに耐えながら目を開けると間近に彼女の顔があった。そして同時に胸板に当たっている、あまりにも直接的過ぎる柔らかい感触を自覚した途端俺は背筋にぞっと冷や汗をかいた。
「お兄さんごめん、大丈夫？」
彼女はそう言って起き上がるが、俺はもうそれどころでは無い。
(なんでスウェットだけやねん……！)
そう叫び散らかしたい気持ちを抑え、平静を装うことに必死であった。
「俺は大丈夫やから。そっちは怪我してへん？」
「うん。ありがとう、お兄さん」
続く
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作者名：か | 作成日時：2023年12月2日 0時
