ルーツメイト 第一章 〈A〉

15 ページ15

は…？


「…な、に…言ってるの」

「何って。お前が聞いてきたんだろ」

「だってっ…そんなの、」


おかしいよ
なにそれ


「…そんなの？」

「…彼女、いたじゃない。中学の時とか」

「昔はそんな風に思ってなかったから。俺だって自覚したの高校の時だったし」

「はっ？」

「…なんだよ」

「高校から？」

「………そうだよ」


段々くぐもっていくテヒョンの声
見るとふて腐れた顔で手元をいじっている

…ほんとう、なんだ

って

「…いやいや。テテ最近まで彼女いたじゃん」

「、それは…」

「失礼致します、お待たせしました」

コト

落ち着いた声が私たちの間にするりと入ってきた

目の前に置かれたココアからはふんわりと甘い香りが広がっていて。私はほぅっと息をつく。
店員さんは小さくお辞儀をして行ってしまった


「……何度も、忘れようとしたから」

「……」

「気のせいだって、思って…」


でも、と続けるテヒョンは
一体今どんな気持ちでいるんだろう


「…やっぱり、会うとさ。分かるんだよ」

「…何が？」

「Aがいいって」


ぎゅっ

唇を噛んだ
胸が苦しい









"ずるい"
今の私に浮かんだのはこの三文字。


ずるい
こんなあっさり

ずるい、ずるい
私はできなかった


私はテヒョンを好きになったことで
自分を守ろうとして大きなものを失ったのに

彼は真っ直ぐに私を好きだと言う








テヒョンに再び彼女が出来た高校２年の春

切なくはあったけど
もう痛みはしない胸に気付いて思った
やっと吹っ切れた

成功した、と。

でも
高校３年の時にホソク先輩と出会って
あぁ違う、とわかった。


凄く素敵な人だった
明るくて気が利いて
とてもとても優しくて
なにより凄く私の事を好いていてくれて。

私もすぐに好感を持った。


なのに

そんな彼を
どこか冷めた目で見ている自分



あれだけ好きだったテヒョン
今はただの友達のテヒョン

人の心は
こんなにも傷付きやすくて
そのくせ案外冷静で

自分の心を保つためなら
他人への愛情は
簡単ではなくとも消すことが出来てしまう。


ホソク先輩とのデートは緊張したけど

"この人は、私の何を見てるんだろう"
"どこで夢から覚めるんだろう"

楽しむよりも
そんなことばかり考えて


その時、気づいたんだ

私は誰かを好きになる心を
忘れてしまったのだと。

16→←14

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す