抱えたもの【伏見臣】 (ページ24)

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MANKAI寮で暮らし始めて数日。明るいうちに帰って、何事もなく過ごしていた。

「Aちゃん、今日残業いける？」

「あー、はい、大丈夫です」

李奈さんから手伝って欲しい新しい企画があると言われ、残業することになった。小1時間で帰れるかな～と安易に思っていたのが悪かった。残業は2時間、3時間と続きラストまで残ることに。

「ごっめん！すっかり遅くなったね...」

「大丈夫ですよ！じゃあ、お先に失礼しますね」

「お疲れ様～！またなんか奢るから！」

私は李奈さんより少し早めに会社を出た。外はすっかり暗くなっており、キラキラと星が光っている。会社から最寄り駅はさほど遠くない。そこから天鵞絨駅まで10分程度。電車に揺られながら、ふと臣さんのことを考える。そろそろお返事したいな。稽古やら何やら皆さん忙しそうで、ゆっくり話す機会が無い。そんなことを考えていたら、あっという間に天鵞絨駅に着いた。

「あー、これは暗いな...」

独り言をこぼして、MANKAI寮へと足を進める。ストーカーらしき人も、私があそこに住んでいるとは知らないだろう。そう思って早足で歩いている時だった。後から私と同じ速度の足音。もしかして、と思った時には遅かった。

「みつけた」

耳元でそんな声がした。瞬時に昔の記憶が蘇る。腕を引かれて目隠しをされ、車の中に連れられる。幼い私はなんの抵抗もできなかった。けど、今は違う。

「だ、誰ですか...！」

「あれ？僕の事忘れたの？悪い子だね」

ねちっとした言い方で私にそう言う。後ろは振り向きたくない。逃げ出すにも腕を掴まれていて、無理そうだ。また、あの日の繰り返しになる。私自身は大きくなっていても、心の弱さは変わりない。助けてくれる誰かもいない。

「Aちゃん！！！」

前の方から自分の名前が聞こえた。街灯の少ない場所だったから顔は見えない。けど、この声は絶対に臣さんだ。

「お、みさん？」

「誰だ...？」

「その子から離れろ」

いつもとは違う低い声で臣さんはそう言った。正直、怖いと思ってしまった。

「お、お前は何なんだよ！」

「...俺の言うことが聞けないようなら」

その言葉と同時に私の腕にあった生温い手の感触が消えた。そしてドン、という鈍い音を立てて後ろにいた男が倒れる。前とは違う、誰かが助けてくれたんだ。その誰かは臣さんだ。私は安堵と怖さからの解放に涙を流した。