Music 8th ページ10
MANKAI劇場前
「帰ろうか」
名残惜しそうに劇場を見据えた後、兄は私に言う。
私としては帰りたくない。でも、カズ兄が言うなら…と、わがままは言わないでおいた。
するとカズ兄は
「…少し散歩していこう」
そう言ってくれたので、私は兄に向かって微笑んだ。
───ザッ、ザッ、ザッ
───トタトタトタ
───ザッ、ザッ、ザッ
───トタトタトタ
足の長さが違うので、自然と歩くスピードは変わってくる。いつもは合わせてくれるのに、今日は考え事をしていているのか、いつも私がいない時のスピードでカズ兄が歩いている。それに合わせようと、私も小走りになっていた。
…考えていることは予想がつく。
「カズ兄」
「…」
呼びかけにも応答しない。
「カズ兄」
「…」
ずっと、私の手を引いたまま、上の空って感じだ。
「三好一成!」
「…ぅわっ! は、はい!?」
フルネームで名前を呼ぶと、大袈裟に驚いて、思わず敬語が出ていた。
「…ってあれ? A?」
どうやら、誰に呼ばれたかも分かっていなかったようだ。
「…カズ兄、ベンチ、座ろっか」
カズ兄は何も言わず、近くのベンチに腰を下ろした。
「…迷ってるんでしょ」
「!」
私を見て、目を見開いてるカズ兄を尻目に私は続けた。
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