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従兄弟のカズ兄に連れられて、兄がフライヤーを作ったMANKAIカンパニーの春組公演に来ていた。
千秋楽ともあって、人はいっぱい。兄が関係者だからか、前の方の席が取れたらしい。
演目は『ロミオとジュリアス』。
シェイクスピアのロミオとジュリエットを元としているようで、私も柄にもなく楽しみにしていた。
「A、大丈夫?」
人混みが苦手な私に、優しいカズ兄は声をかけてくれる。
「うん、大丈夫だよ」
我ながら素っ気ないとは思うが、これでも精一杯なのだ。
左手にあるカズ兄の手をギュッと握り、その幕が開くのを今か今かと待ち構える。
ブ──────
芝居が始まる。
幕が開いて、そこからはただ、感動しかなかった。
「「ありがとうございました!!」」
役者の方々が挨拶をして、退場する。
会場が明るくなり、あちらこちらからすごかったねーやら、かっこよかった! などの、賞賛の声が聞こえてきた。
多分、私にとって初めてだと思う。
「…カズ兄」
「んー?」
帰る準備をしていたカズ兄を呼び止め、舞台をじっと見つめながら言う。
「私…ここの専属作曲家になりたい」
「!」
一瞬、驚きに顔を染めたカズ兄だったが、すぐにいつもの優しい笑顔を私に向けた。
「…そっか。じゃあ、話に行こ? 監督さんや支配人さんに。で、許可を取ってこよ」
「うん」
言葉では覚めているかもしれないが、心の中はまだ熱い。火が灯ったように。
今なら、この舞台のための曲がかける。いや、書きたい。
今まで苦痛だった曲作りも、ここでなら、上手くやっていける。そう思えた。そんな演技だった。
だから私は
ここで咲きたい
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