近代化という物 ページ32
吉良が差し伸べた手の上にある物を見て、Aが顔を顰めた。
「……電子機器か……」
近代の携帯電話らしい。良い思い出が無い代物だ。
「今のところ、魔法以外に君との連絡手段が無いからな
使い方を教えるよ」
「……吉良には言ってなかったかもしれないが、私は電子機器がどうも苦手で……」
「何となく察していた
だが頑張って順応してくれよ、おばあちゃん」
Aの隣に座って、吉良がその手に携帯電話を渡す。
「最新の物でね、操作は画面に触れるだけでいい
まずはこの図形に1回触れてみてくれ」
言われるがままに、表示されている画像に指先で触れる。
「……吉良先生、指が貫きました」
「なんで?」
見事にAの人差し指が携帯電話を貫いている。貫かれた携帯電話の画面は真っ黒になり、それきり何も映らなくなってしまった。
「貧弱すぎる!これじゃあ落としただけでも壊れるんじゃないか?
アダマント並みの硬度を持って出直してこい!」
「まぁそんなこともあろうかと何台か買ってきたんだよ
もう一回、今度は優しくね」
指先で丁寧に、ゆっくり触れる。
「……画面割れた」
「優しくって言ったよな」
見かねた吉良が、指を絡めてAの手を握った。
「少しぎゅって握ってみてくれ」
吉良に繋がれた手に少し力を込める。
「……痛くない。骨も折れないし、力加減は完璧なんだが
その調子で画面に触れるんだ」
吉良の手を離し、触れる。画面は割れなかったし、貫通もしなかった。
「……?何が変わった?」
しかし何度触れてみても、反応を示さない。
「……おかしいな
私が触れても反応するし、壊れてはないはずだが……」
顎に手をあてがい、Aが呟いた。
「……吉良、この電子機器はどうやって動いてるんだ?」
「静電気で反応すると聞いたが」
「あ……なるほどな
吉良、手を」
Aが手を差し出し、その上に吉良が手を乗せた。
(不覚にも今、どこぞの王子かと思った)
自分で考えておいて、無いな、と吉良が我に返った。その一方で、空いている方の手で携帯電話をいじっていたAが感情の無い声で言った。
「あ、反応した」
「なぜだ……」
「私、静電気流れてない
だから吉良とこうしていれば私にも静電気が流れて、携帯電話を使えるって事だな」
「結局意味が無い!!」
本末転倒。Aに電子機器はまだ早かった。
193人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
(名前)山葵(プロフ) - この小説と作者さんにに感謝 (2022年4月7日 18時) (レス) @page50 id: 5816bc8f92 (このIDを非表示/違反報告)
納豆巻き - 番外編も楽しく読ませていただきました。こんなに面白い作品に出会えて良かったです。本当にありがとうございました。 (2021年5月20日 9時) (レス) id: 640a457bd0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:1匹のメタリカ | 作成日時:2020年10月31日 9時