願い ページ27
「A」
名を呼ばれ、振り返る。
「ん？」
刹那
唇に、柔らかい感触が伝わった。目の前に、形兆の長いまつ毛に積もった雪が見えた。
まるで時が止まったようだ。思考回路が働く事を辞めた。
形兆の目がゆっくり開く。瞳に映る自分を見た。
「久しぶりに会えて……ピアス、付けてくれていて嬉しかった
後悔したくないから言うが
俺はお前を、そういう目で見ている
……分かっている。お前は不老不死
遅かれ早かれ、先に死ぬのは俺の方だ
お前にとっては5年なんて、瞬き程の時間なんだろう
だが俺は……お前に命を助けられてからずっと、時の流れが遅く感じる
今を生きれているのは、お前のおかげだ」
目の前に居る形兆は泣きそうだ。冬だと言うのに顔が熱い。
放心状態のAを、形兆が強く抱きしめる。
「……正直に言う。お前を帰したくない
もう二度と会えないような……そんな予感がするんだよ」
歯を食いしばる音が聞こえた。
「……それだけだ」
しばらくして、形兆がゆっくり離れた。
Aは俯いたまま動かない。
「……ごめん」
あまりにも小さな声だったので、聞き返そうと形兆が腰を折る。
「ごめん、形兆
本当にごめんね」
何故謝るのか理解出来なかった。Aの頬を両手で挟んで、優しく持ち上げた。
顔が上がったAの目から、大粒の涙が溢れ出ていた。
そこで形兆の意識が途絶えた。倒れた形兆を支えて、その額に冷えきった手を置く。
脳内で、まるで機械音のような無機質な声が流れる。
魔法を奏で始めたのだ。
【部分的精神処理を実行】
「恨んでくれていい
今から私は、君の想いを無下にするのだから」
【Aに対する恋愛感情を消去】
「形兆、君にはまだ未来がある
護るべき者がきっと見つかる」
【消去完了】
「真っ当な人生を……幸福に包まれた、そんな家庭を築いて欲しい
だけど、私がそこに居ちゃダメなんだ」
【以後、虹村形兆が ××× に対して恋愛感情を抱く事はありません】
「私も『好き』だよ形兆
過不足無く、皆を等しく愛している
この素晴らしい世界が終わるまで、ずっと……」
.
「億泰、居る？」
「Aさん！？久しぶりじゃねぇかぁ！
あれ、兄貴どしたの？」
「気分悪そうだったから寝させた
寝室まで運ぶよ」
「おぉ、ありがてぇ
なんなら泊まっていくか？」
「いや、今日は帰る
また今度遊びに来るね」
「いつでも来いよな！」
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(名前)山葵(プロフ) - この小説と作者さんにに感謝 (2022年4月7日 18時) (
レス) @page50 id: 5816bc8f92 (このIDを非表示/違反報告)
納豆巻き - 番外編も楽しく読ませていただきました。こんなに面白い作品に出会えて良かったです。本当にありがとうございました。 (2021年5月20日 9時) (レス) id: 640a457bd0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：1匹のメタリカ | 作成日時：2020年10月31日 9時
