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｢もし、家を出る前にコーヒーを飲んでいなければ｣
ターゲットが護衛の1人に声を掛ける。席を立つようだ。
｢もし、床が磨かれていなければ｣
椅子の足につまずいて僅かにバランスを崩し、踏ん張った足は意味をなさずに床を滑った。
｢もし、履き慣れた靴であったなら｣
咄嗟に掴んだテーブルからカトラリーが落ち、ターゲットのつま先は天を向く。彼の目にはどこまでも高い青空が映っていることだろう。
｢カトラリーの落ちた場所がズレていたら。護衛の手が間に合っていたら。テラス席でなければ。そもそもこの店を選んでいなければ｣
倒れるターゲットの延髄にナイフの先がピタリと合う。人体で最も重い頭と落ちた勢いが合わさってしまえば ナイフは容易く突き刺さる。
テーブルが派手に倒れる音、一瞬間を置いて耳を劈く悲鳴。うるさそうに耳に指を突っ込むプロシュートと両手で塞ぐペッシに対し ヴィーノはスタンドを仕舞ってエスプレッソを飲み下した。
｢……だが、そうはならなかった。それが全てだ｣
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