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逃げて来てしまった。
会いたくて聞きたいこともあったのに、今どんな顔で彼に会えばいいか分からない。
“大切な人”
やけにその言葉が引っかかる。
名前を呼んだ時も、ピアスも見た時もそうだ。
頭の中に懐かしい記憶が過ぎって胸がざわつく。
さっきの言葉を聞いた時も、記憶が過ぎったわけではないけど似たような胸のざわつきを覚えた。
しかもその違和感は決まって何かを思い出せる予兆であることに最近私は気づいてしまった。
庭を見渡していると、近くに咲いていたバラの花びらが2、3枚落ちている。
『凄く綺麗ですよね』
何も覚えてない私に声をかけてきた彼。
『俺のことを忘れても、俺はまたあなたと仲良くなりたいよ。』
自分にとって大切な人が記憶を失って、自分のことを何も覚えてない状況でまた仲良くなりたいと私は声をかけれるだろうか。
きっと私ならショックでしばらく会うことも話すことも出来ないだろう。
彼は会いに来てくれた。
仲良くなりたいと言ってくれた。
なのに私は、
「…ミノ」
手の中にあるピアスを両手で優しく包み込んだ。そして体を丸め目を瞑る。
彼の名前を何度も心の中で呼んだ。
思い出したかった。
思い出せないのが苦しくてたまらない。
このピアスだって、私が普通に買ったものならなんとも思わない。なのに頭の中で言葉が過ぎった。それはきっと私が今まで忘れていたことで、思い出すべきこと。
「A！！」
聞き慣れた声が後ろから聞こえた。
それは私がずっと心の中で名前を呼んでいる人の声。
「大丈夫？具合悪い？」
身を屈め、心配そうにする彼に私は首を横に振った。
逃げたことは彼にはバレていないようだ。
私の手の中にある雫のピアスを見た彼は、「これ…」と目を見開いた。
「拾ってくれた人がいて、持ってきてくれたの。
…ミノ、このピアスって私がつけてたの？」
「そうだよ。良かった、壊れてなくて。」
手の中にあるピアスを彼は微笑みながら眺めていた。
「ピアスの穴塞がってる？」
耳たぶを触ると、幸い穴は塞がっていない。でも今まで自分の耳たぶに穴が空いてたことなんて気づかなかった。
「付けようか？」
「いいの？」
「うん、貸して。」
ピアスを手から取ると、耳たぶに彼の手が触れた。
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薄(プロフ) - リノ推しさん» そう言ってもらえて嬉しいです！これからもお楽しみいただければ幸いです！ (8月21日 7時) (
レス) id: 881b900482 (このIDを非表示/違反報告)
リノ推し - めっちゃ面白い最高です！ (8月21日 0時) (レス) @page6 id: e3a9f906ca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：薄 | 作成日時：2023年8月17日 23時
