指輪にかけた魔法 (ページ5)

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家に帰るとリビングに明かりが付いていた。

「遅い。」

冷たく低い声が私の耳に伝わる。

スーツ姿のままソファーでくつろぎ、彼はスマホを見たまま私の方を見ない。

「ごめんなさい。ご飯は…」

そう聞いても彼から返事はない。

シンクに目をやると食器が水に付けられていた。

どうやら食べ終わっていたようだ。

「君は主婦だろう？家事をやってればいいものをよく外に
…」

彼は呆れていた。

主婦としての役割を果たしていない私に。

家にいるのが辛くて逃げ出したなんて彼は思ってもいないんだろう。

「ごめんなさい。」

私は頭を下げ、自室のドアを閉めた。

薄暗い部屋で体を小さくして蹲る。

ごめんなさいを言う時、何故かすんなり言えた。

私の中にある苦しさが今は薄れていた。

男子高校生に指輪をはめてもらった瞬間から。

魔法使いみたいな人だと思った。

私の中にある苦しさ、痛み、悲しみをかき消してくれる人。

綺麗な顔立ちで、高校生かと疑うほど大人びていた彼との出会いが今は夢なんじゃないかと思う。

でも、夢であってほしくない。

呪いのように感じた指輪を彼がはめてくれたのが嬉しかった。

「指輪、似合いますね」と言われたことが嬉しかった。

今日のことは忘れないだろう。

そして彼の事も。