For you (ページ32)

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Youside

なんで彼が私の頬に触れたのか分からなかった。

私の頬に触れた彼の手は少し冷たくて。

私を見る彼には優しい目の中に悲しさが入り交じってるように見えた。

私が名前を呼ぶと、パッと手が離れ彼はいつも通り「なんでもありません」と言い扉に顔を向けた。

それが取り繕ったように見えて、ますます気になる。

「永瀬」

「なんでしょうか」

いつもならこっちを向くのに彼はこっちを振り向いてくれなかった。

永瀬が何を考えているのか私には分からないのが嫌になる。

私の考えていることは永瀬には見透かされているのに。

私は彼の腕をぐいっと引っ張り、扉の隣にある壁に押し寄せた。

「永瀬の考えていること、私上手く理解できないけど、気に食わないことがあるなら正直に言ってくれて構わないから」

私が勢いよく言ったら永瀬は驚いた目をしていた。

そしていつもの優しい目に戻ったと思ったらぐいっと私に綺麗な顔を近付けた。

その距離約3センチ。

「…あります。気に食わないこと。」

「な、なに？」

「…ちょっといいですか」

永瀬は椅子に掛かっていた黒いコートを私にかけた。

「他の人にはあまりお嬢様の肌を見せたくありません。」

不覚にもずるいと思ってしまった。