2-15 ページ34
4時間にも渡るオペは結果的に言うと成功した。
病気の進行が早く、少し遅ければ肺移植になっていただろう。
ベッドで眠っている春野さんの頬を撫でる。
「…お願いします。」
「はい。」
私は710号室では無い、個室を離れた。
…春野サクラさん。
享年17歳。
オペ終了後長い戦いの末、ご両親に看取られ亡くなった。
緊急オペ自体は成功…だが、それが表すのは"完治"ではない。
「娘を…娘を返してください…！」
「最愛の娘なんだ…どうかっ…。」
個室を出ると、ソファーに座っていたご両親が私に飛び掛ってくる。
私はそれを受け止めるしか無かった。
「最善は尽くしました。……大事な娘さんを…すみませんでした！」
2人から少しだけ離れ、大きく頭を下げる。
薄暗い中、看護師たちが遠目に私たちのことを見ていた。
「っ…分かってるんです。サクラは、星野先生の事をとても良い先生だと話してくれていました…。あなたが悪くないのは、分かってるの…。」
母親がハンカチで目元を抑える。
亡くなった患者さんの御家族は、私にいつもそうい言う。
『彼は、彼女は、"星野先生は良い先生"と言っていました。あなたが悪くないのは十分わかっています。』
ここへ来てから、何度もそんな言葉を聞いた。
残された御家族たちは、どこかへ怒りを…悲しみを、ぶつけたいんだ。
その対象が、担当医の私になるのは当然のこと。
それを受け止めるのも、医師の仕事のひとつ。
「私の、責任です。…本当に、すみませんでした…！」
「先生…！頭をあげてください。家内も今は動揺しているんです…。それに、先生に頭を下げさせていたらサクラに怒られます。」
父親が涙に濡れた顔を必死に明るく笑う。
私はそれに、思わず涙が出そうになった。
「っ…はい……。」
頭を上げ、お二人の顔をしっかりと見つめる。
「行こうか。」
「えぇ…そうね。」
お二人は私に小さく頭を下げ、個室へと入っていった。
暫く背中を見つめ、私もその場から移動する。
患者さんが亡くなった時、いつも行く場所。
病院の外の庭のベンチ。
看護師さんに少しだけ挨拶をして、そこへ向かった。
ベンチがある所へ行くための階段を登っていると、声が聞こえてくる。
「…無力だな。……お前に無理なら、無理だ。」
来生の声…。
お前って、浬のこと…かな。
私は来生の横に立った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 864人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あい - 苗字もかえられたらなぁ、、 (2020年2月19日 10時) (
レス) id: c1027a2b46 (このIDを非表示/違反報告)
かの(プロフ) - 紗奈さん» ごめんなさい、恐らくバグだと思います…。私の方でも時々表示されません…。何度か2-10をタップして頂けると表示されると思います…！更新頑張ります^^* (2020年2月13日 9時) (レス) id: 387ee06ba6 (このIDを非表示/違反報告)
紗奈(プロフ) - 2-10が公開されてないんですけど私だけでしょうか？いつも楽しく読ませていただいてます。これからも頑張ってください!! (2020年2月13日 2時) (レス) id: 7ed4c7ed68 (このIDを非表示/違反報告)
かの(プロフ) - かなたさん» ありがとうございます…！甘えてる天堂先生、あのドSっぷりからは想像できませんね…。笑 更新頑張ります！ (2020年2月11日 23時) (レス) id: 387ee06ba6 (このIDを非表示/違反報告)
かなた(プロフ) - ぁぁぁぁ！！好きです！浬がすんごく格好良い！！今寝ちゃってるけど、酔ってる状態で一回起きて星野ちゃんに甘えてほしい！！とか思っちゃいます(おい)更新頑張ってくださいね！ (2020年2月11日 21時) (レス) id: 62bfdae21e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：かの x他1人 | 作者ホームページ：
作成日時：2020年2月9日 0時
