【文豪ストレイドッグス】シャチはイルカを食べるのだ

【開幕】ぶっ壊せ！1 ページ9

例の龍頭抗争は織田作が死ぬ二年前。
今は未だ私は少年だから、これから先に起こる未来の事。
そして安吾がミミックに接触するのもその辺り。

さて、どうするのが最適解か。

助けられる孤児は助ける。織田作も助けた、その意思は受け継ぎたい。
灰色の亡霊達とマフィアの抗争が無ければ、マフィアは『異能開業許可証』の発行が出来ない。あの頭でっかちな影の大物、異能特務課は動かない。
……いや、きっと森鴎外なら、ミミックとの戦争が無くったってどっかで異能開業許可証を入手するだろう。
問題は太宰治だ。彼の脱マフィアのきっかけが織田作之助の死だ。

うーん……四の五の考えてたって仕方が無い。きりが無い。

国木田独歩では無いけれど、為べき事を為べきだろう。
今私にできる事をやるべきだ。

・


留置所を出た。久し振りに浴びた日の光が眩しかった。
結局、私は当初の決意も虚しく『原作をぶち壊す』方向で動く事に決めた。
私の理想に反するが、織田作が、私が生き残る為だ。
そして私はもう一つ決めたことがある。
『全員助ける』ことだ。
織田作ならきっと全員助ける。そういう男だ、彼は。優しいのだ。

……とはいえども、フリーの請負殺人でもやっていなければ、日銭も危ういので今日も今日とて人を殺すのだが。
いかんせん、それが人の望みであり、顧客(クライアント)の依頼なのだ。果たさぬ訳にもいかない。

今日の殺した人の屋敷で本を見つけた。
作者名は『夏目漱石』
この本だ、と私は思った。

織田作の思想を変えたと言っても過言では無いこの作品が、一体どんな話なのか、私には見当も付かなかった。夏目漱石が下巻は最悪だと言った理由も、それを織田作が最高だと評した理由も。全てわからずじまい。
私は今、知れる立場にあるのだ！ ウキウキして何が悪い。

職業暗殺者という事もあって、私は大通りを歩かずに、狭い路地を歩いていた。所謂スラムと呼ばれるような場所。
ここはほぼ無法地帯だから、通行に気を使わなくて済むので便利なのだ。

「……おっと、すまない」
どんっと貧弱な子供とぶつかってしまう。
その子供はこちらを一瞥もしないでそのまま駆け抜けた。
およそ、私の腰にかけてある財布を盗んだのだろう。
私はその背をじっと見つめ、やがて一つ息を吐いてから走り出した。

中のお金の何割かは恵んであげてもいいが、流石に財布は困るのだ。
ちょっと上等なものだから、財布だけでも返してもらわないと。

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