【文豪ストレイドッグス】シャチはイルカを食べるのだ

イルカは半分だけ眠る1 ページ21

太宰と出会っていくらか経つが、未だ安吾とは会えていない。
そういや、安吾と会ったのは原作じゃいつだってなってたっけ？
確か織田作と太宰の体から悪臭が漂ってて、それに安吾が「近寄るな」って言って……みたいな話だったと記憶しているんだが。
そんな悪臭を漂わせるような任務を私は未だ仰せつかってない。
何故悪臭を纏っていたのだろうか。下水処理でもしたか？

……違うな、血と油の鉄臭い、生臭いあの匂いだ。
死体の処理は何度かした事がある。1人分であればさして苦でもないが、人数が増えるほど、その臭いは増す。
太宰のような者まで駆り出されるような死体の処理なんて、アレしかないな。
『龍頭抗争』
龍頭抗争が始まったら、もう砂時計はひっくり返されたと思っていい。2年だ。
小説開始まで2年間。

私はそれまでに何が出来るだろうか。

……いや、きっと何も出来やしないだろう。
未来を知っているからといって変えることは容易ではない、その事が今身にしみてわかってきた。
予感があったところで結局、何かが起こるまでは何も出来ない。織田作も言っていた。


・


今日をもって龍頭抗争が開始された。
ヨコハマは夥しい数の死体をもって埋め尽くされ、私は死体の処理に勤しんでいた。
(ここぞとばかりに私を有効活用してくるな)
まあ、私の他にも下っ端は大概死体の処理に回されている。下っ端の役目は死体の処理か弾除けになる事だ。
鼻が曲がりそうな臭いにも既に慣れ……いや、多分もう鼻がもげて臭わなくなったんだろう。
(あと2年)
2年という短い期間で私はどう動けばいいのか。
いっそポートマフィアを辞めてしまうか。そうすれば人を殺したくない正当な理由が作れるし、ジイドも多分……納得してくれるだろう、多分。
だがそうすると就職先が無い。探偵社なら多分雇ってくれるとは思うが、給与がなあ。何せ私はこれから5人の子供を養育しなければならないのだ。

二進も三進もいかないこの現状を打破する方法を、私は知らない。
私に太宰のような頭があれば良かったのだろうか。
私が織田作のように正しかったら、正しい行動が出来ていたのだろうか。

織田作は言っていた。
『太宰はいつも正しい。そして私はいつも間違った事ばかりしている』
確かに太宰治は正しい。ポートマフィアの在り方そのものだ。お手本のような男だと思う。
だが、私は織田作が間違っているなんて思わない。
何処までも正しいと思う。

間違っているのは私だけだ。

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