マニュアルラブはすれ違い / shpp ページ19
．
AIパロ
──
時は３ＸＸＸ年。
暗くなったオフィスには、数十台のパソコンが暗転している。
しかし、私の目の前のパソコンは未だ仕事の資料を映している。
その資料は私が今日中に仕上げなければならないもの。
＿＿私の最後の仕事。
数日後に転勤が決まっている私は、今日ここでの仕事に終止符を打つ。
誰も私の転勤に興味は無い。
AIが世界中に広まり、それぞれの会社にはAIを配置することでサービス残業の減少を図ったものだったのだが、今では幾つかの会社ではAIの指示に従う人間となっているのだ。ペットに過ぎない。
所詮人間は弱い。
人間の思考を超えるそれを想像する事さえ出来なかったのだ。
しかし、私の会社にいるAIは、普通のAIでは無い。
この会社はそれ程儲かっている訳じゃ無い。
だからAIを導入してどうにか以前に、導入がなかなか出来ない。それに社長が人間を超越するAIを酷く嫌っていたのも理由だ。
そこで導入されたのは、人間を上回る事の無いAI。
AIと言うよりロボットというのが正解かもしれない。
人間が作ったマニュアル通りにしか動かないロボット。
人間の声を聞き、一番近い回答をする。
それは無感情。そして無能とさえ今では言われる。
でも、そんなロボットが、AIが大好きなのだ。
それは普通の男性より魅力的に見える位。
危機感を感じて行った合コンでさえ
機械的な動き、声、言葉、見た目、表情。
温度の無いその体が、驚く程私を安心させた。
ショッピ、という名前を着けられた彼を、私は可愛がっていた。
＿可愛がるという名の、ただの恋愛感情から巻き起こるものに過ぎないのだが。
もう彼とも最後。
ふと気がつくと、机の上に湯気の立つ珈琲が置かれていた。
「Aさん、お疲れ様です」
「珈琲をお持ちしました。此方はミルクです」
『ありがとう…これも、最後かぁ』
私の呟きも気にせず、彼は充電スポットへ戻ろうとする。
「ショッピくん」
名前を呼べば、位置を把握してくれて、近寄ってくれる。
最後なのだから、ここで仕事をするのも、彼を呼ぶのも、彼に近づけるのも。
『好き』
「…ごめんなさい。その言葉にどうやって返答したら良いのか分かりません」
そんな無機質に、私は涙を流すのだ。
＿＿
今日から新しい職場。
引き締まる気持ちと共に、パソコン内にあったファイルを開く
「AI舐めて貰っちゃ困りますわ」
．
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作者名：眠斗 | 作成日時：2019年5月22日 21時
