２０.店員さんと社畜さん ページ10
．
『ここかぁ』
「そうですよ」
建物はそれほど大きい訳では無く、外壁は黒に近い茶色の木目調で仕上がっていた。
看板には店名が書かれているが、日本語特有のごちゃごちゃした羅列でも無く、しかしながら英語でも無いようだ。
窓は綺麗に磨かれ、店内の良さげな雰囲気が伝わった。
エミ教授と来たのは、エミ教授イチオシの喫茶店。
チェーン店では無く、個人経営のこじんまりとしているお店なのだが、とても美味でお洒落らしい。
「行きましょうか、Aさん」
そういうエミ教授に続くように入店。
からんころんと可愛らしい音が鳴り、入店を歓迎される。
その音を聞いてか、ご主人らしい男の人がこちらを向いて頭を下げる。
店内は平日の昼間という事もあってか、人があまりいなかった。
あまり、と言ってもいるのは窓際の一人席に腰掛ける新聞を読む60代後半くらいのダンディな方だけだ。
やはり有休を合わせて来て良かった。
エミ教授の休みと私の数少ない有休を有効活用出来て嬉しい。
店内は珈琲と紅茶の香りが混ざった香りだった。
それは不思議と不快感を感じさせず、逆に幸せに浸る事が出来た。
クラッシックが、微かに聞こえる。
集中力を刺激しない、丁度の良いBGMに身を委ねたくなる。
エミ教授に連れられ、窓際の席へ行く。
窓際の4人がけの席に着くと、暖かな日差しが差す。
その暖かさが非常に心地好く、思わず深呼吸をしてしまう。
「何を頼みますか?」
『んー…』
ここではお昼も兼ねる予定だ。
意外にもメニューは多く、珈琲や紅茶という基本の飲み物から、甘いショートケーキやご飯系と言われるであろうパンケーキ、更にはナポリタンやオムライスという様な物もメニューに描かれている。どれも美味しそうだ。
『エミ教授のオススメは?』
「そうですね…まず紅茶はオリジナルの物が良いと思いますよ。折角の有休ですしね?」
そう言ってにこりと笑うエミ教授には、どうやら珈琲が私の仕事スイッチとなっている事に気づいているようだ。エミ教授にはかなり気を使わせてしまっている。反省だ。
『じゃあそれ』
「私は珈琲にしますかね、あと…」
そう言ってエミ教授はメニューを見つめる。
「季節のフルーツと生クリームのシフォンケーキ、とかどうでしょうか」
『これ、美味しそうですよね。食べた事あるんですか?』
「ええ、それはとても美味で」
お口が上手い、とご主人が零し、いえ事実ですからと返す光景はとてもかっこよかった。
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作者名：眠斗 | 作成日時：2019年6月11日 21時
