. ページ13
「いきなり寒なったなあ、」
『ほんとですね。』
わざとらしく身震いし、いつもの席につく。ケーキセットを頼む堂前さんを見て、今日はいい日だったのかな、と私の心も暖かくなった。
「そういえばAは東京の人かあ、実家帰ったりせんの？」
『前はちょくちょく帰ってたんですけどね……。このご時世でめっきり。』
「東京からわざわざ来るってちょっと珍しない？なんか大学でやりたいことでもあったん？」
『いえ、特にそういうのでもないです。行けそうな国立が大阪だったっていうのと、……なんとなく一人暮らししたくて。』
それなりに楽しかったけど特筆するようなこともなくてなんだかぼやけてしまっている高校生活を思い出しながら言った。そのパッとしなさそのものが自分の人生だな、と思って自嘲的になる。
「まあ、なんかわかるわ、その気持ち。……楽しいか、大阪。」
『楽しいですよ、みんなあったかいですしね。』
「そうかあ、よかった。」
堂前さんはにこにこと笑いながら、まるでお酒かのようにぐっど水を飲み込んでいく。
「そういえばな、」
『ん、どうしました？』
「単独の下見で動物園行くことにしてん。」
堂前さんは指を組み直し、ポキポキと鳴らす。
「やから一緒にどうかな、と思って。」
『えっ、私……でいいんですか？』
「一緒に行ってみたいと思って、ここ以外のとこ。」
目をしばしばさせる私に堂前さんは続ける。机の隅を見つめる堂前さんはいつもと同じなようで、でもやっぱり緊張しているような気がした。
『私でよければ、勿論。』
「よかった、楽しみやわ。」
私はコーヒーを飲み、堂前さんはケーキを食べる。そこに会話はないが、自然と心地よい。いつの日か、2人の間に沈黙が続いていても気まずく感じられなくなったなあ、と思いながら時計の秒針をぼんやりと見つめた。
「おいしいなあ、」
『おいしいですね。』
「たのしみやな、動物園。」
そうですね、と私はふふふと笑いながら言った。柔らかい表情をするようになったなあ、と自分でも思う。
『楽しみです、本当に。』
そう言った時の堂前さんの笑顔は温もりそのもので、どうしても心から消えない、そんな大切なものだった。
.
M-1お疲れ様でした！2本見られて幸せ。
lovely siesta 〈短編集〉
短編集作りました！堂前さんの短編もあげてるのでよろしければ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 220人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雨 - とっても素敵な作品で、何回も読み返してます！！これからも楽しみにしております😌😌 (2023年2月3日 3時) (
レス) @page28 id: 9fa3a51cd4 (このIDを非表示/違反報告)
紫音(プロフ) - 堂前さんとの物語更新される度に見させてもらってます。これからも楽しみにしてます😊 (2023年1月4日 23時) (レス) @page22 id: ed97066529 (このIDを非表示/違反報告)
ワカ(プロフ) - ほんと大好きな作品。いつもお疲れ様です！更新待ってます！ (2022年12月24日 14時) (レス) @page16 id: 1bc0632cd6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あこ | 作成日時：2022年12月10日 0時
