多くを愛せよ、アドレセンス【w．r．w．r．d】 (ページ4)

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【ht】文学的な恋ページ4

「白鳥の飛羽山松の待ちつつぞ
わが恋ひわたるこの月ころを」
『なんやそれ』

休み時間、することもなくぼーっと席で虚空を見つめていれば、隣の席であるひとらんらん…もといひとらんから呪文のような言葉が聞こえて、思わず反応してしまう。

彼はびっくりしたように目を丸くするも、直ぐにいつもの穏やかな顔に戻ると、「これはね、和歌だよ」と教えてくれる。
『わか？』「そう。日本固有の形式である詞のひとつだよ。」『はんぇ』

そうえば、テストの範囲に和歌ってあったなぁ、と想像を巡らせる。
余り勉強もしないから、関係ないことと思っていたが。

…好きな男の子が詠んでいるなら話は別である。

『それ意味とかあるん？』「意味っていうか…想い人に会えるのをひたすら待つ…って感じかな？」
『ほぇ、遠距離なんかな？』「ふふ、言葉的にそんな感じかも。」柔らかく笑う彼に、思わず引き寄せられてしまう。
もっと、彼と話したい。…ひとらんと、話していたい。

『他にはないん？』思わず出た言葉だった。
自分で言っておいて自分で驚いてしまう。
迷惑かもしれないのに、私はなんてことを。
そんなことを思う私を他所目に、彼は嬉しそうに微笑んだ。

「あとはね。恋ひ恋ひてあへる時だに愛しき
言つくしてよと長くと思はば、とか。」
『うんうん、』
「たちかへり泣けども吾は験無み
思ひわぶれて寝る夜多き、とか。」
『うん、あとは？』
「うつつにはそもこそあらめ夢にさへ
人目を守ると見るがわびしさ、とかかな？」
『そんなにいっぱいあるねんな？』
私がすごいな、と感嘆の声を漏らせば、彼は少し笑ったあと、私の顔を見る。

「おぼつかな君知るらめや足曳の
山下水のむすぶこころを」

そう言うと、ふふっと彼が笑う。
彼の笑顔は妙に嬉しげで、私は首を傾げた。

彼なりの告白と気づくのは、少し後のお話。

意味)貴方は私がひっそりと山下水のように貴方を思っていることをご存知でしょうか