44.ベランダ。 ページ44
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京本さんのあんな現場をたまたま目撃してしまったからか食欲がなくなってしまい、そのまま真っ直ぐ家に帰ってきた私。
「ただいま…」
そう小さな声で呟いた。
今までずっと実家暮らしだったから習慣になっていて口に出してしまう。
まぁここはシェアハウスだし1人暮らしではないからこういうのは言った方がいいのかな？
そういえばいつもは誰かしら声を掛けてくれるはずなのに今日は誰の声も聞こえない。
リビングからの物音も聞こえなかったから一階には人が居ないんだろうか？
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不思議に思いつつ、リビングへ行ってみるとベランダから人影が見える。
「あれ…誰だろ？」
そっーと静かに近づいてみると、
誰なのかだなんていうことはすぐに分かった。
派手な色をしている髪の毛が風に吹かれて揺れている。
この派手髪といえば住人の中では1人しか居ない。
田中さんだ。
彼の後ろ姿だと分かった途端、ほぼ無意識的に窓に手を触れていた。
ベランダにあるフェンスに寄りかかっていて、
星一つ見えない今日の曇った空を眺めていた田中さんの隣に無言で彼と同じ様にフェンスに寄りかかって立ってみる。
すると田中さんは「お、びっくりした」って本当に驚いた様子で私を見た。
「あの…ちょっとだけ隣に居てもいいですか？」
「全然いいよ。てか訊く前にもう隣にいるじゃん」
そう私をチラッと見てハハッて笑った。
寂しいとかじゃなかった。
今は誰かのそばにいたかったのかも。
それが田中さんだったってだけっていったら
それはそれで失礼になるけど…。
「ごめん、一本吸っていい？」
首を傾げて私に許可を得るように訊いてくる田中さん。
多分、彼は私が煙草を吸わないからっていう事を知ってるから気を使って確認してくれたんだと思う。
「はい。どうぞお構いなく…！」
だってもう灰皿の中にはすでに煙草を何本か吸った形跡が残っている。
田中さんを横目で見ると、こなれたようにライターで煙草に火をつけ口にくわえる。
その横顔が色っぽくて何処か悲しげだ。
何を考えてるのだろう。
好きな女の子のこと？それとも仕事のこと？
でもそれを私が聞く権利なんてどこにもなくて、
彼にとって私は友達と言っていい存在なのかさえ分からない。
彼の中で認識されてるとしたら
ただ同じ家に住む住人の一人ってくらい。
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作者名：つくね
| 作成日時：2021年5月26日 15時
