とある軍の幹部事情！Story3 (ページ33)

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第122話　byベンジャミンページ33

『誰でもいいからちょっと耳貸せ！』

急にザザッと音を立てた通信機に、そしてそれに続く声に、驚いて処方箋の山を崩しそうになる。声の主――クロは慌てて声を張り上げているのか、軽くハウリングしている。うぅ、み、耳が……。
けれど、その後の内容は、些細な不満も吹っ飛ばした。

『今、ウィルと通信が繋がった！』

……ウィル？総統の……だよね？
目の前でカルテをさばいていたラフが、ペンを落とす。

『あーあー……えっと、聞こえる……かな？』
「っ……ウィル、こっちがどれだけ……！」
『は、はは……皆、心配かけてゴメン。こちらウィル。……なんとか、生きてるよ』

久しぶりに聞いた、ちょっと別人のような声に、生きていてくれた安堵と、本当に大丈夫かという不安が同時にやってくる。とりあえずは、ほっと息をついた。

やたらと冷静な頭がぐるぐると分析し始める。
声は張りがなく、ひどく枯れてる。ノイズで誤魔化されてるけど……多分、これは喘鳴。拘留が長引いてるから、栄養失調と脱水が始まってるのかも。
……うん、すごくまずい。機械越しの声でしか判断できてないけど、かなり弱ってる。こんな状態で感染症に罹ったりしたら……。

それはラフも同じだったらしい。
ウィルの報告を聞きながら、雑用紙を引っ張り出し、ものすごい勢いで必要になるだろう薬品や機器を書き連ねている。……後で集中治療室を予約しとかないと。

『――い、おい、ラフ！聞こえてるか！？』
そうこうしているといつの間にか報告は終わっていたようで、ウィルよりは音質の良いクロの声が耳に飛び込んでくる。

「っ、ええ」
『安否確認できたし、作戦詰めるぞ。』
「……今行く」
……ラフ、やっぱり心配なんだろう。先生も言ってたけど、医者――特に救急医療だったり軍属だったりする人は、死の気配にひどく敏感だから。
行くと言いながらも、メモとカルテに目がいっている。

「……ごめん、ベン。ちょっと行ってくる」
「ら、ラフ！」
今の状態で行かせるわけにはいかない。そう直感してとっさに呼び止めるけど、言葉が見つからない。

「オペ上手、いっぱいいる。ウィル、帰ってくる、したら、死なない。絶対、助ける。から、……えと、えと……」
あぁ、言葉が上手く伝わらないのがもどかしい。

「……Kein Problem(大丈夫).」
口をついたのは、少し訛りの強いドイツ語。でも、共用語よりかはずっと上手く操れる言葉だ。
「Tun Sie, was Sie tun müssen(君がやらなきゃいけないことをやって).」
「……Okay(わかった).」

良かった。やっと笑った。