もう一人の転生者 4 (ページ33)

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第三皇女不安2 ー護衛騎士の葛藤ーページ33

高く上がった桶に向け、鋭い矢が二本飛んでくる。一本が当たり、桶は遠くへ転がっていった。次の矢を番えるまでの数秒を狙いすまし、男は身を起こす。

空を薙ぐように男が手を振る。すると細身の暗器が、一人の弓兵の上腕と喉に。残る一本はもう一人の眉間に深々と刺さった。

？？？「行くぞ」

促す男に続き、立ち上がるが、頭の中はグチャグチャだった。
護る戦いに、向いていない？
あの方の盾であり剣でありたいと、願っているのに。

戦場では、僅かな気の緩みさえ命取りになる。分かっているのに、雑念が払えない。周りの敵を切り伏せながらも、鬱屈とした気持ちを抱えていた。

ローゼマリー様を護りたい。

あの方の願いごと。あの方の大切なものごと、俺が護りたいのに。
俺には、護り方が分からない。
周囲の敵全てを屠る、それしか出来ない。

船員「ぐっ、」

騒然たる状況の中、押し殺した苦しげな声が耳に届く。
振り返ると、船員の一人が海賊に押し負けている。切り結んでいた相手を突き放し、肩から腹にかけて、斜めに斬り捨てた。

駆け寄り、船員を今まさに斬り殺そうとしている海賊の首を切り裂こうとした時、上空から女性の声が木霊した。

？？？「そこを退きなさい!!」

新緑の髪と瞳を携えたその女性は、片手に鞭を携え、隣には白い狼が控えていた。
その女性は鞭で海賊を気絶させ、何事も無かったかのように船員に話しかけた。

？？？「大丈夫ですか？」

船員「あ、ああ。ありがとう」

呆けて座り込んでいる船員に手を貸し、引っ張って立たせた。
しっかりしろ、の意味を込めて肩を強めの力で叩く。

？？？「貴男達は？」

クラウス「運悪く乗り合わせた、乗客員だ」

？？？「そう……。ただの乗客員でもなさそうだし、私も手伝わせて頂きますね」

女性との会話はそれだけで、すぐに別の敵に向かい、駆け出した。
一人でも、死なせてたまるか。

混戦状態となった甲板を見渡し、心に誓う。
誰も死ぬな。
あの方の心に、誰も傷をつくるな。

俺にとっては、なんの思い入れもない人間が死んだところで、痛くも痒くもない。だが、あの方は、ローゼマリー様は哀しむ。
救えなかった自分の無力を嘆き、己を責める。

それは妄想ではない。過去にあった出来事を鑑みての、事実。

魔導師誘拐事件の時、あの方は敵の手先である侍女の命を救う為に、必死だった。だが、俺はローゼマリー様の命を護ることだけを優先し、あの方の願いを黙殺した。