もう一人の転生者 1 (ページ34)

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皇女の出立ページ34

トール「随分と晴れた顔をしているな」

A「沈んだ顔よりは良いではありませんか、お兄様」

トール「そうだな。して、ヨハンの事は聞いているか？」

A「はい、ローゼからの文で存じております。ヴェント王国へ留学されたようですね」

トール「あぁ。それでフィオには外交を、フィリーには内政を手伝って貰おうと考えている。勉学に対する姿勢も伸びも良い。随分と姉馬鹿に育ったものだ」

A「あら、お兄様。あの子達は兄馬鹿でもありますよ？」

顔を見合わせ、互いに笑う。次に会えるのは何時かなど判らない。だが、一生の別れではないのだ。
妹達にしても、成長が垣間見れて嬉しい事だ。

トール「さて、時間だな。身体には気を付けろよ」

A「兄様も、お身体には気を付けて下さい」

トール「またな」

優しく頭を撫でられ、その余韻に浸っていたいが、そうもいかない。船に乗り込み、ムーンパレスの地を後にする。
船上ではアクセルの他に、二人の騎士と一人の老師がいた。騎士の一人はカーティスで、もう一人は女性だ。老師は髭が似合うとてもダンディーなおじ様で、名前はテイファン・ロウ。
女性騎士はセレスティア・ハウ。愛称はセレス。海上戦の専門騎士だ。新緑の瞳に、肩につかない髪の左側には、上品な髪飾りを付けている。
そんな彼女は、何やらアクセルとカーティスの仲裁に入っている。

カーティス「ねぇ皇女(プリンセス)、今からでも僕にしませんか？」

アクセル「カーティス殿、騎士は私です！何度言われようとも、変わる気はありません！」

セレス「姫様、どうにかしてよ～。さっきからずっとこの調子なのよ？ロウ老師なんて孫を見るような感じで止めもしないんだから」

アクセル「大体、カーティス殿はA様に引っ付き過ぎなんです！少しは自重したらどうですか！」

アクセルの言うように、Aを見つけたら腕の中に閉じ込める。そしてそのまま肩に顎を乗せてアクセルをからかうのだ。

カーティス「何です？自分が出来ないからって、僕に当たらないで頂けますか」

A「カーティス、私を巻き込まないでくれる？」

カーティス「冷たいですね、皇女(プリンセス)。僕は貴女ともうじきこうして触れ合えなくなるのが寂しいというのに」

もっともな事を言っては、更に抱きしめてくる。だが、このやり取りが見れるのは、次は何時になるだろうか。言葉の応酬が収まるのは、もう少し先の事。