呪いの王の最愛の花嫁【両面宿儺】

肆話 ページ6

心地の良い風が響き渡り
朝日が俺の顔を照らす

もう、朝か…
さっきから…何だこの匂い…

俺は、ゆっくりと起き上がり
匂いのする方へと向かうと
そこには、包丁を一定の音で刻み
鍋を確認している結の姿があった

宿｢…お前、何をしている｣

貴｢おはようございます。よく寝れましたか？｣

結は、俺の姿を見ては
安心するかのように
うっすらと微笑んだのが分かった

宿｢質問に答えろ。何をしている｣

貴｢見ての通り、朝ごはんですが？｣

俺の質問に対し、意味が分からんのか
結は、首を傾げては
鍋からお椀へ汁物を移し、机の上に並べる

貴｢貴方が私に“自由に生きろ”と言ったんですよ
なので、私も好きなように生きます｣

宿｢つくづく変わった女だな｣

俺が呆れたように言ったはずなのに
“ありがとうございます”と照れながら答える
結は、滅多に居ない人種だと思った

貴｢それより、食べて下さい
料理の腕には、幼い頃から村の人たちから
学んでいたんで、自信あるんです｣

結は、俺の腕を取り
俺を無理やり机の前に座らせては
対面に座り、目を輝かせる

宿｢……はぁ｣

俺は、でかい溜息をつき
結の作った汁物のお椀に手をかけ
口の中へと流し込む

宿｢…なかなか筋がいい｣

…確かに美味い
俺の口の中に旨みが広がる
人肉しか好んで喰わなかったが
なかなかこれも捨て難いな

貴｢ふふ。嬉しいです｣

結は、そんな俺を見ては
満足そうに見続ける
俺は、何故か照れ臭くなり目を逸らす

宿｢しかし、これだけのものだ
材料はどうしたのだ？｣

貴｢昨日、村の皆に説明したら
たくさん頂いたんです
私が宿儺様に作ってあげたいと思ったので｣

宿｢そうか｣

結と、どうでもいい話をしているうちに
俺のお椀の中は、全て空になっていた

それに気づいた結は
満足気にそのお椀を下げようとする
俺は、その腕を掴む

宿｢誰がまだ下げろと言った｣

貴｢へっ、でも、もう空ですよ？｣

宿｢…まだ腹は満ちておらん｣

俺の小さく呟いた言葉に
結は、ふふっ、と小さく笑い
颯爽に同じようにお椀にたくさんのものを注ぐ

貴｢お口にあって良かったです｣

宿｢初めて食うが、人の飯も悪くないな｣

貴｢なんか、あたたかいですよね？｣

あたたかい？…ふむ
これがあたたかい、というものか
この謎に心に満ちた感じは…

宿｢そうかもな｣

何故か“あたたかい”という感情に
この空間の居心地の良さに
結の笑みに、俺も、自然に笑みが出ていた

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