呪いの王の最愛の花嫁【両面宿儺】

参話 ページ5

なんだ…
殴られたのか？
この俺がか？

貴｢ふざけないで下さい
私は、真剣に貴方に食べられに来たのです｣

結の目は、まっすぐ俺を見ては
悔しそうな表情をする

宿｢わからんな
何故、そのような面をする｣

貴｢私が出来る恩返しは、それだけですから｣

結は、俺の腹の方にある口に
腕を突きつける
口の中に入ろうとしている

貴｢さぁ！お食べ下さい！｣

俺は、こんなに必死に食べられたい女を
笑わずにはいられなくなり
ケヒヒッ。と大声を上げて笑う

宿｢断る｣

俺は、結を持ち上げて
その場にゆっくりと座らせる

貴｢な、何故ですか！食べて下さい！
これでは、村の皆にも、顔向けなど出来ません！｣

宿｢気が変わった。安心しろ
村には、何もせん
それと安全に暮らせる事を約束しよう｣

結は、俺の言葉に驚き
いきなり、距離を詰めては
俺の顔へと近づく

貴｢ほ、本当ですか！？｣

宿｢あぁ。お前の事はまだ喰わん
まだ、楽しみがいがありそうだ
好きに生きるがいい｣

すると、結は、目に光を灯し
頬に涙が滝のように流れ始める

宿｢なんだ。お前、泣けるのか｣

貴｢…私も人間ですよ｣

宿｢本当に変な女だな｣

村の為に何故そこまで必死になれるのか
色々試したが、死が目の前にあるのに
涙を流すどころか、怖気付くこともなかった

その覚悟はどこから出てくるんだ…
たかが村の為に何故そこまでできる…

貴｢あの…｣

宿｢なんだ｣

俺は、結の方を向くと
結の手がゆっくりと俺の頬を摩り
結は、悲しそうな表情をする

貴｢叩いてしまいごめんなさい｣

俺の頬は、結の手からの熱が伝って
顔が熱くなるのが分かった
それと同時に脈が跳ね上がるのが分かる

なんだ？これは、…

宿｢お前、呪術師か？｣

貴｢じゅつし？｣

宿｢いや、良い。気にするな｣

俺は、結の手を離し
ゆっくりと立ち上がると
結も同じように立ち上がる

宿｢話を戻そう。お前の好きに生きていいと言った
村に帰ることも許す
何をするにもお前の自由だ｣

貴｢…ッ__。ありがとうございます！宿儺様！｣

結は、満面な笑みを浮かべる
それは、俺にとっては、初めての光景だった
それと同時に俺の鼓動が早くなる

貴｢それでは！“また”！｣

そう言って、結は、
俺へ背中を向けて山を下って言った

あいつ、“また”と言わなかったか？空耳か…
こんなところに来るやつなどいないだろう

でも、何故だ…
あいつがあいつの声が、名残り惜しいと思うのは…

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