二人奇譚 (ページ2)

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陽炎町の北、早綠区の自警団の拠点の休憩室のソファーに腰掛けた、自警団の制服に身を包んだ男女が話をしていた。

「はあ、失踪事件、ですか」
「ああ。最近多いらしく、不明瞭な点も多いからこっちに回ってきたんだ」
「多いって、どのくらいですか？」
「先月末から立て続けにざっと五件、だな」
「共通点は？」
「ほぼない。居なくなった奴はみんな学生だが、それだけだ。何かの事件なのかも知れないし、単なる家出かもしれない」
「なのにこっちに来たんですか」
　呆れたように女が言って、マグカップの中の冷えた紅茶を飲み干した。
　女は女性にしては長身で、黒い長髪を一つ結びにしている。化粧っ気のない、さっぱりとした雰囲気の女性だ。相対する男は男性にしては細身で、短く切られた、光の加減によっては金にも見える銀髪が印象的だ。手の中には湯飲みが握られている。

「まあ、いいですよ。調査してきます」
「悪いな、鬼塚」
「三輪さんがもってくる案件、大体あたりですからね」
　鬼塚と呼ばれた女性は、少しうんざりしているようにもとれる声音で言い、流しにマグカップを置いて休憩室を出た。

「……あんま嬉しくないなぁ」
　一人残された男性、三輪はひっそりこぼし、湯気が立ち上る緑茶を一口すすった。

　休憩室から出た鬼塚を出迎えたのは、身の丈が一九〇以上もある屈強な若者だった。その若者は自警団の制服を着ておらず、赤い襦袢に黒い衣服、帯を貝の口に締めている。少し短めの衣服の裾からは、股引がのぞいている。よくよく見れば、黒い衣服には所々焦げ茶色の斑模様がみてとれた。

「話は終わりか？」
「今から調査」
「んだよ、もう終わりじゃねェのかよ」
「まだだっつの。むしろ始まったところだわ」
　若者と鬼塚はそんな風に談笑しながら、拠点を出て町に繰り出した。