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「金香様、本日の御色直しをさせていただきます。お鈴でございます。」
禿の女の子の一人が私の大部屋に訪れた。紅や椿油を詰めた大きなカゴを持ちながら、小さな体で歩いてきた。少し歩み寄り、その小さな手からそれを受け取ると、とんでもないとでも目を丸くして私からそれを奪い返した。
「金香様!なりませぬ!!このような雑用は私が…!」
『いいの、気にしないで。こんな大きな荷物を運んで怪我でもしたらどうなさいますの。』
「金香様!」
クスクスと笑いながらさらっと奪い返すと、またワタワタと禿の女の子は慌てていた。可愛らしい。
『お鈴、と言ったわよね。今日はめいいっぱい豪勢に粧しあげて頂戴。』
「は、はい!!」
すとんと、それを鏡台のそばに置いて鏡に向き合った。お鈴と名乗った禿に髪に塗る油を手渡してそうお願いした。
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御粧しは誰のためでもない、私のためだ。
捕まって罰を受けるかもしれない、ちゃんと逃げ切れるかもしれない。前者でも後者でももうこうやって着飾ることは出来ない。
だから、こんな胸糞悪い理由で着飾った最期の華々しい姿として、自分への手向けのつもりだった。
「金香、そろそろ準備しなさい。」
『はい。楼主様。』
花栗A、ではなく「夜雨の詩」の遊女の金香最期の姿かな。
花魁道中______遊女が直々に茶屋に出向いて客を迎えに行く、そのために外に出向く。唯一の外の空気と言っても過言ではないが、そのあとは決まって一夜を共にするわけだから、正直いけ好かない。
「金香様、お手を…。」
お鈴に差し出された手を取って、素足で黒塗りの高下駄を履く。
履きなれない物でふらふらとした為、お鈴は慌てて私の背中を支えてくれた。
「金香様、ゆっくりで大丈夫ですから。」
『お鈴…ごめんなさいね、苦手で…。』
「存じております。金香様はご寵愛を受けておられる方です。あまり外に出むかれないのも事実ですから。」
さぁ、ともう一度履くことを促され、笑いかけながら履き直すと、今度はしっかり履けた。
人の目につく所までは手を取って歩くのをサポートしてくれた。
振袖新造が集まって私に笑いかける。番傘を私のほうに傾けて、歩くように促された。
さあ、私の最初で最後の脱走劇の始まり。
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さくらいろ(プロフ) - マロンさん» ありがとう(*´˘`*)最近更新する時間を作れることが多くて今頑張ってます!待っててください(^^) (2020年5月30日 16時) (レス) id: 8627590864 (このIDを非表示/違反報告)
マロン(プロフ) - さくちゃん待ってたよぉぉお!!てか最初の方から好きすぎてやばいのですがどうしましょう!?← え、取り敢えず好きすぎてやばいです……!!!、 (2020年3月22日 21時) (レス) id: 16f9fe16fe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さくらいろ | 作成日時:2020年2月27日 23時