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「一般の庶民でも化粧はするで?塗るか塗らないかは本人の自由やで。」
『でも、私は外に出るときは紅を引いてたから、なんとなく落ち着かなくて・・・。』
「だったら、付けてき。・・・、どんどん慣れればええねん。金香太夫じゃなくてAとしての生活に。」
この人は、私の思考が透けて見えるのだろうか。ほしい言葉をほしいときにくれる。たった数時間の仲なはずなのに、ずるい・・・。
自然に私の手から取り上げていた紅を筆に付けて、付きすぎた分を端で落とし、十分に紅を纏った筆を私の方に向けた。固く噤んだ唇に丁寧に塗っていくその手つきは慣れたもので、禿時代の自分を思い出した。他人の紅をさすのって、すごく難しい。
「うん、綺麗やわ。ええな、肌が白いから赤い紅が映えるな。」
『へ、あ、いや、・・・あの、ありがとう、ございます?』
「なんで照れてんねん。それこと褒め言葉には慣れとるんちゃうの?」
『・・・お客様の言うことは基本的に右から左だったので。』
「・・・なるほど。」
塗りおえたのか、布で軽く筆を拭いて机にそれを置いた千羅さんが訝しげにそう呟いた。私は首をかしげるも、彼はすぐにいつもの笑顔に変わった。切り替え機械でも備わっているのでしょうか。
今改めてみれば、千羅さんもそれなりに質素な着物を身につけている。でも、彼の顔立ちからだろうか、卑しく見えない。目鼻立ちのしっかりした顔と、なんと言っても異国を思わせる明るい瞳と髪。・・・あまり詮索するのもよろしくないわよね。私もそうだけど、繊細な部分だろう。
「さ、そろそろ行こか。」
『はい。』
なんとも自然に手を差し出され、なんの躊躇いもなく手を取った。あっ・・・私流されてる。顔色を変えた私を彼はおもしろいものを見たと言わんばかりに笑った。
「断れると思ったわ。」
『あまりにも手慣れてて絆されました。』
「おーきに。でも、慣れてくれると嬉しいわ。ここにおる奴らみんなそんなもんだし。無意識にやってくるから気ぃつけや。」
『うえぇ〜〜〜・・・・・んんっ・・・・・・本当ですか?』
「出てるでー本性。」
距離感近い人たちの集まりなんですか?っていう否定的な気持ちが溢れてしまった。そんな私を見てもケラケラと笑う彼は相当変わった人なんだなと思った。
いつも使うものとは違う玄関先でこれまた綺麗に準備された女物の下駄を履いて問いた。
『歩きながらで良いので、皆さんのこと教えていただけませんか?』
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さくらいろ(プロフ) - マロンさん» ありがとう(*´˘`*)最近更新する時間を作れることが多くて今頑張ってます!待っててください(^^) (2020年5月30日 16時) (レス) id: 8627590864 (このIDを非表示/違反報告)
マロン(プロフ) - さくちゃん待ってたよぉぉお!!てか最初の方から好きすぎてやばいのですがどうしましょう!?← え、取り敢えず好きすぎてやばいです……!!!、 (2020年3月22日 21時) (レス) id: 16f9fe16fe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さくらいろ | 作成日時:2020年2月27日 23時