檸檬の香る部屋 - アンナチュラル -

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中堂さんに乾かしてもらった髪はサラサラで、男の人に髪の毛乾かして貰った事なんて無いし、誰かにやってもらったのは幼稚園児だった頃以来だから何だか嬉しくて、くすぐったかった。



『 ふふ、髪の毛サラサラ 』



嬉しくて髪の毛を梳いていれば中堂さんにいつまでここに居るんだって怒られた。自分が引っ張って来た癖に、



『 はいはい、言われなくても帰りますよーだ 』



そう言って立ち上がり部屋から出ようとすれば私にも香ってきた檸檬の匂い。



中堂さんに抱き締められてると気付いたのは目の前の扉を閉められた時。



後ろから抱き締められていたのに扉が閉じるのと同時に正面から抱き締められた。



『 何、で 』



「 どうして、そんな顔をする 」



『 え…？ 』



「 檸檬の匂いだと言った時もそうだ、何でそんな顔する 」



ぐっ、と声も出ず押し黙る。そこから先の言葉は出したくない。私の過去を知られればここで皆と笑い合う事は出来ない。



『 檸檬、嫌いなんです 』



これは嘘じゃない。檸檬は戒めだ。私を過去に縛り付けて現実を目の前に突きつける。忘れる事など許さない、そう誰かが言った。



私の顔を見て大きく舌打ちをすればもう一度抱き締められて。



「 クソめんどくせぇ 」



強く抱き締められて苦しい。中堂さんの考えている事が分からない、どうして私を気に掛けるのか。どうして、で頭が痛い。



背中で持て余している腕で彼を抱きしめる事は私には許されない。



皆の元へ戻った時、



「 A髪の毛サラサラだね 」



「 ほんとだ、いつもよりいい匂いするし 」



そう言われて、優しく髪を乾かして貰った事に胸が苦しくなった。



一人、会話に混ざらずこちらを見ている久部くんには気付く余裕も無かった。

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