急がば転がれ ページ4
.
「……いきてッヴぇッァ」
肺に入った血液が喉を競り上がり舌を押し上げて外へ出んともがいていた。純金縁にボトっと塊が落ち畳に染み込む。目にはいる己の手は人のものとは思えない鋭さをもっている。俺はついにヒトですら無くなったらしい。
．
空気と戦うように力強く竹刀を振るう。一晩経ったか二晩経ったか一月経ったか窓もないこの部屋では時間の概念すら存在しないようだった。体力も底を知らない永遠と続けられるような気がした。
振るっている竹刀も部屋にあったもので使っていいのか分からなかった。することが無いなど初めてだった。手持無沙汰はごめんだ。もう一度竹刀をブンと振った。
ベベン何処かから音がする。
「獪岳……と言ったか」
「ハ、獪岳と申します」
「ここで何をしていた」
獪岳は困っちまった。部屋は自分が起きたときそのままの状態で使っている。竹刀もあり、純金縁の畳であった。目の前の黒死牟の腰には刀が刺さっており。これは黒死牟の部屋ではないかと。
「獪岳」
「すみませ」
「何を謝る……鍛練中か」
「え、あ、ハイそうス」
「……鬼になると、己は強くなったと鍛練をしない者が出る」
「そ…なんですか」
「鬼となれば元の肉体はより強靭に。そして食えば食うほど力が付くからだ」
「故に鍛練を続けるものは少ない」
「……」
「……外へ」
「えっ、は、」
地面がひっくり返る。
地面は上空であった。体制を立て直し背中と腰をひねり着地する。
なるほど鬼の根城は正しく根であったか。
「構えろ」
「……ウス」
大木のようだった。己が目の前に立ったのはこれが二回目であったが実のところ立っているのがやっとであった。
「……私は元鬼狩りだ、お前と同じな」
「え」
「我ら後戻りは出来ん…………鬼は常に守れば勝ちよ。人間と違ってな。人の時は有限、鬼の時は無限。急く必要はなし……鬼に成ろうと鍛練していたお前なら十二鬼月に昇るだろう、昇らぬ道理はない
……………呼吸は」
「雷、です、でも俺壱の型は、出来なくて」
「結構……全力で、弐の型」
ぐ、と柄に力を入れる。竹刀であるので鬼の力ですると折ってしまいそうであったが全力で。壱だ、あの上弦の壱が真っ直ぐ此方を見据えている。俺だけを三対の瞳が捉えている。
「ッ雷の呼吸、弐の型稲魂」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
水菜(プロフ) - 零華さん» コメントありがとうございます。ちゃんとオトせたので満足いたしました！重ねた努力分のプライドは高価であるし高いと思います。読んでいただきありがとうございました。ご縁がありましたらまた。 (2020年3月18日 13時) (
レス) id: 92ee7868b2 (このIDを非表示/違反報告)
零華 - 完結おめでとうございます！最後のオチは、あぁ~という感じで、良くこれを思い付いたなと思いました。壱ノ型だけが使えないというのは、プライドの高い獪岳には不完全で嫌だったのかも知れないですね。そして最後に短くてもとても楽しかったです！。次もガンバレ！！ (2020年3月17日 19時) (レス) id: f56491ae0c (このIDを非表示/違反報告)
水菜(プロフ) - 零華さん» ありがとうございます。短いお話になる予定ですが付き合っていただけると嬉しいです(._.) (2020年3月10日 21時) (レス) id: 92ee7868b2 (このIDを非表示/違反報告)
零華 - こういう、小説みたいのって少ないから嬉しいです。やっぱり獪岳が、鬼滅キャラの中で一番好きです！！続き楽しみです。更新頑張ってください！。 (2020年3月10日 15時) (レス) id: f56491ae0c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：水菜 | 作成日時：2020年3月10日 2時
