・ ページ21
「……物好きだよね、轟って。 なんだって、僕なんか」
僕は座席に深く座り直した。
「それが分かったら苦労しねえよ……俺だって知りてえ。 誰かの寝顔を崩したくないって思ったのって、生まれて初めてだし」
どうしてこうもまあ、この男はストレートなんだろうか。
する事もなくて、窓の外を眺める。 夕日の光が、陰と交互に僕の頬を撫でつけた。
長いトンネルに入った。 抜けると、窓の外はオレンジで染まった海が広々と広がっていた。
あれ、この景色、どこかで見たことがあるような。 妙な既視感を覚えた。
そして僕はついに思い出したのだ。 ここ、小さい頃、出久と一緒に来た所だ。 僕がいつも乗ってる電車は、ここへと繋がっていたのか。 へー、軽く感動。
無性に懐かしい話だ。 あの頃から、出久は僕の太陽だった。 暴虐な父から助けて貰った。 すっごい感謝している。
僕と出久は、あの逃避行劇の時、あの海で遊んだっけ。 何も考えず、無邪気に。 真っ暗な空に浮かぶ月の下、怖いと震える僕をを出久は抱きしめてくれた覚えがある。
出久。 懐かしいなあ。 僕のヒーローになったばかりの出久。 いつから、僕の嫉妬の対象になっちゃったの。 君が守ってくれて、僕を守るよと誓ったあの夜の、出久に対する想いを、僕はどこに置いてきたのだ。
アナウンスが鳴る。『まもなく龍田口駅でする。 お降りの際は、車内にお忘れ物がないよう、ご注意ください』
荷物を持って降りようとする轟の腕に、僕はそっと触れた。
「ね、轟。 このまま乗ってこうぜ」
「降りなくていいのか？」
「うん。 そのまま。 どうせもう遅いんだし。 それに、付いてきて欲しい所があるんだよ」
「……別にいいけど。 どこまで行くつもりなんだよ」
プシューと電車の扉が閉まる。 電車は右へと加速し始める。
「太陽のいない所」
遠い山の向こうを、眩しく輝く夕日が沈もうとしていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 43人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
アイト - 好きな感じの、話です！続き、待ってます。頑張ってください！ (2018年4月1日 18時) (
レス) id: 28880c114b (このIDを非表示/違反報告)
かやん(プロフ) - けいとるさん» コメントありがとうございます！ 頑張ります！ (2017年10月2日 19時) (レス) id: fbec895554 (このIDを非表示/違反報告)
けいとる - 面白いです！ 頑張ってください 応援してます!! (2017年9月26日 20時) (レス) id: a21381c293 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：かやん | 作成日時：2017年9月24日 15時
