最強がいなくなった世界

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「えぇっと、それで？私の渡したお金が怖いって話？」


「…そ」


「困ったな、本当に普通の1万円札なんだけど」


笑いがようやく治まって、本来の話題に戻す。
五条悟の言う「怖いお金」とは、何かしら法を犯したやばいお金のことを指しているのだろう。だが私は断じて犯罪に手を染めていない。その証明をどうすれば良いのか分からないけれど。


「俺は別にそんなこと思ってなかったけど、今俺を叩いたヤツが“返しとけ”って」


「なら、電話してくる方がよっぽど危ないと思うよ」


「…確かに」


もうほんとバカ。電話番号、こっちに残っちゃうけど。

笑いを耐えるのに必死で、上手く頭が回らない。深夜なのも含めて笑いのツボがおかしい。


「……まぁいいや。俺はオネーサンのことはヤバいやつって思ってるけど、そういう犯罪者とかだとは思ってねーし」


「そう？でも君の友人は君の心配をしてるんじゃない？」


「コイツは別に平気」


五条悟がそう言ってのけると、電話の向こう側で「何も平気じゃないけど？」と強い口調の声が聞こえる。

私はその声に、息を飲んだ。


「ちょっと待って、君の友人さ」


「ん？」


「…いや、うん、電話、その子に代わってもらえる？」


「え？あー、ちょっと待って」


携帯の向こう側の会話。「なんかお前と話したいって」「はぁ！？いやさすがに」「マジで話した感じはやばくねーから平気だって」「悟は警戒心無さすぎだろ」なんて聞こえてくる。そんなに信用ないだろうか。

というか、私はこの声を知っている。時間にして2、3年しか聞いてこなかったけれど、聞き間違えるはずがない。何度もこの人に惑わされたんだから。


「…もしもし。代わりました、五条悟の友人です」


「あぁ、うん。そうだね。名前は？」


「…」


「あー、あの、本当に犯罪者じゃないから警戒しないでほしいなあ。一応公務員だよ」


「それは悟から聞きました。ですがそれを、そう簡単に信じられるとでも？」


「それもそうだね…うーん」


話し方からほぼ確信を得る。彼は絶対アイツ。

あぁほんと、横にいるのはいつだって君だよね、ずるいなあ。


「じゃあさ、名前、当ててあげるよ」


「は？」


「君の名前は夏油傑。夏に油と書いてゲトウ、スグルは1文字で、“傑作”とかと同じ字。どう？合ってる？」


「なっ…なんで」


「はは、実は占いが趣味で」


嘘をついて、笑ってみる。きっとさらに、怪しまれるけど。

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