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「は？物語……何？」
突如降って沸いた単語を聞き返さずにはいられなかった。
『黒い服装に十字架』=『宣教師』となる単純な脳内では「宣教師」といえば宗教の勧誘しかなく早々に立ち去ろうとしたが、宗教よりもっと意味のわからないことを提示され思わず狼狽えてしまう。
必死に意味を理解しようと頭を働かせていると
「あーあ、またやってるよ」
もう一人、黒服を纏った人物がこちらにやって来るのが見えた。先程訳のわからないことを言った彼と同じような宣教師の服を着ているが、こちらは十字架ではなく鍵のようなものを下げている。
遅れてきたその人は既にいた彼の隣に立つと、こちらに向かって深々と頭を下げた。
「先程は連れが失礼しました。この度は『この物語を終わらせたい』とのご依頼をいただき誠に...」
「それさっき俺が言ったよ」
「あれじゃ端的すぎるから始めてのこの人でもわかるように依頼内容を噛み砕いて説明してるんです。むしろ感謝してほしいくらいだね」
「はあ、どうも...じゃない、内容云々の前にさっきから何なんですかその『依頼』って。それに...」
何を話すかと思えば先程と同じ話をされ、慌てて流れを止めた。当然のように私が「依頼」をしたという体で話されているが、ここ最近、というより自分の記憶の中で、誰かに何かを依頼したことは一度もない。
何より、その内容。
「...物語を終わらせるって、どういうこと？」
自分の耳が可笑しくなければ、目の前にいるこの2人は可笑しなことを言っていた気がする。
「─人の生などというものは、自分が主人公となるだけの『物語』に過ぎない。そして物語の結末は、いつも主人公が決めるもの」
普段の自分なら、そんな言葉を受け入れたりはしない。「何言ってるんだ、気持ち悪い」と目の前の人物を一蹴することなど容易いだろう。しかし、
「終わらせたいんだろ？─お前の
何故か今日は、その誘いをとても甘美で、感じたことのない魅力に溢れたものとして受け取ってしまった。
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作者名：蛸馬 | 作成日時：2023年7月28日 11時
