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入ったときにはまだ明るさを見せていた空は、
話を終えてコーヒーショップから出る頃には
既に闇が支配していた。
口元を覆う布は頬に流れる大量の粒を吸い、とっくにその役目を果たしていない。
アルバイトを、クビになった。
会社にたまに来る得意先の人間が
「ストーカーと盗撮をされた」と言ってて...と
派遣元の社長が申し訳なさそうに述べる。
本来は「私が居た場所に数回彼が通りかかった」が事実だし、盗撮に至っては全くの事実無根だった。
写真フォルダを見せそのことも証明したが、
「疑惑を抱かせた方が悪い」と言うことらしい。
入って半年の派遣アルバイトと、
日本中の誰もが知る大口の取引先。
どちらを取るかは、明確だった。
(...真面目にやってたつもりなんだけどな)
顔写真も撮って確認したからクロらしくて...と申し訳なさそうにする社長に「それは盗撮ではないんですか？」と言えないまま、その話を受け入れるしかできなかった。ひたすら謝りながら駅に入っていく社長を見送り、せめてもの抵抗で顔をあげると視界一杯の曇り空がなんだか今の自分みたいで笑ってしまう。
暗雲立ち込めお先真っ暗、傘を指しても当たる大雨。星のようなわずかな光さえ、どこにも見えない。躊躇いもひっかかりもなく、“それ”は彼女の口から溢れた。
「もう、終わりにしたい...」
『──なら、終わらせればいい』
突如風が目の前を吹き抜け、思わず顔を覆い隠す。急な嵐が止み目の前を見ると、宵闇に溶け込むような漆黒を纏う男が立っていた。十字架を象ったシルバーのネックレスを下げこちらを見据えるその姿は、どことなく本で見た宣教師を思わせる。
「な...なんですか？宗教勧誘なら間に合って...」
「お初にお目にかかります、AA様。この度は物語終了のご依頼、誠にありがとうございます」
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作者名：蛸馬 | 作成日時：2023年7月28日 11時
