階級・甲の癸さん拾壱

488話　我妻side ページ30

我妻「今日も起きてないのか…。」



傷自体は治っても、精神に負ったものは中々治らない。



今回の精神的な傷は、かなり大きなものになったと思う。



…音が、小さい。



いつ絶えてもおかしくないくらいに…癸さんから聞こえる鼓動の音も、何もかも、小さい。



鬼を連れている隊士がめの前に何人も居て、一瞬怖くなった。



でも…炭治郎からする音と…何より癸さんからする音が、俺を安心させてくれた。



優しくて、あたたかい…そんな音が。



いつも求婚したら大体の人が軽蔑の眼差しを向けてきたりした。



でも、癸さんはそんなことなくて…何を言っても、優しく包み込もうとしてくれた。



なのに、とても小さく…優しい音に隠すように、軋むような音が続いていた。



何かを苦しむような…それでいて、何かを訴えるような…そんな音が聞こえてきて、俺も苦しくなった。



…どうにか救える方法はないか、って何度も考えたけど。



俺に出来ることは何もなくて。



気の利くことも言えない、喜ぶことも言えない、だからわざわざ何すれば良いか聞いた。



…そんな俺を、笑顔で受け入れてくれて…其処を良い所と言ってくれた癸さんに、段々と惹かれて行ったんだ。



もし俺が…あの時、埜田さんの話をした時…軋んで今にも壊れそうな音を聞いた時。



何か声を掛けられていたら…もしかしたら、何か違ったかもしれない。



俺はいつも…何もしてあげられない。



謝りたい…それで、教えて欲しい。



どうすれば…癸さんを、心から笑わせてあげることが出来るのか。



だから…早く起きてよ。



我妻「…ねぇ、癸さん…。」

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